もはや新入社員は、できなくて当たり前。「俺の時代は……」と前時代的な考えを押し付けても意味がない。
「こんなことも知らないのか!」新入社員や若手社員に対して、こう思ったことはありませんか? 毎年、さまざまな企業の新入社員研修を担当していますが、今の会社を設立した15年前から「近頃の新入社員は、当たり前のことができない」という相談を受け続けています。
「今どきの若いもんは……」という年長者の嘆きはなにも今に始まったことではありません。今、50〜60代の経営者層の人でも若いころには同じようなことを言われてきたはずです。エジプトの壁画にすら、「最近の若い者は」と描いてあるといいます。いつの時代も上の世代から見ると若い者は異星人のような存在です。
今も昔も、新入社員は新入社員です。見た目は立派な大人だとしても、社会人としては例えて言うなら小さな子どものレベルです。まだ何も経験したことがないのですから。
特にここ数十年は、核家族化に合わせて地域コミュニティーが希薄化したことで、社会に出るまでの間に年長者と交流する機会がほとんどなかった人も少なくありません。昔は、同居する祖父母や地域の人がさまざまなことを教えてくれました。目上の人間に対する礼儀やマナー、あいさつなど日常生活の中で当たり前に教えられてきました。ときに理不尽を経験することもあったでしょう。しかし今は、家庭でも学校でも厳しくしつけられることはなくなりました。近所のおせっかいなおじちゃんやおばちゃんもほとんどいなくなりました。これまで以上に、新入社員は何も知らない状態で入社してくることになります。
もはや新入社員は、できなくて当たり前です。そこで「俺の時代は……」と前時代的な考えを押し付けても意味がありません。知っていて当たり前だと思っていると、余計に腹が立ってしまいます。「そんなことも知らないのか!」と突っぱねるのではなく、一つ一つ教えていけば、必ずできるようになります。
人は大きく2種類のタイプに分けられます。自分で何でも考えて行動できる「自立型人間」と、自分では何も決められない「依存型・指示待ち人間」です。部下の成長を思えば、やはり「自立型人間」であってほしいものです。
自分で考えて行動できるタイプの部下はそれでいいですが、問題は「指示待ち」タイプの部下です。もともと依存心が強い人もいますし、自分で決めると責任を負うことになってしまうため、失敗を恐れてしまっている人もいます。もともとは指示待ちタイプの部下であったとしても、上司の関わり方一つで、自立型タイプへ変わることは十分可能です。
部下の自立性を引き出すために、とっておきのフレーズがあります。何か聞かれたときに、「あなたはどうしたいの? 自分の考えは?」と聞いてみるのです。
返事を聞いた上で、いい答えであれば「それで進めなさい」と言えばいいですし、もし部下の返事に対して、ちょっと違うなと思った場合には、「他には? アイデアをもっと考えてみて」と再考を促します。このように質問することで、部下に自ら考え行動する力を身につけさせることができます。
入ったばかりの新入社員であれば、1から10まで丁寧に教えてあげることもありますが、まだできないからといつまでも先輩や上司が手や口を出していては、その部下はいつになっても自分の枠を超えた仕事ができるようにはなりません。
「小さいうちは手をかけて、大きくなったら目をかける」という子育ての格言がありますが、これは部下育成にも同じことが言えます。教えたい気持ち、手伝いたい気持ちをグッとこらえて、部下自身に考えさせ自ら答えを導き出す経験を積ませることが成長には必要なのです。
このときに、注意したい点が2つあります。1つ目は、部下が自分で決めたことだからと責任まで押し付けないこと。任せることと放置することは違います。考えたのは部下でも、承認した以上、責任は管理者にあります。適宜報告を求めながら、必要であれば軌道修正を促します。管理者である以上、仮に部下が失敗しても、自分が責任を取るという覚悟は常に持っておかなければなりません。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授