第1の習慣 なされるべきことを考えるドラッカーが教える成果をあげる人の8つの習慣(2/2 ページ)

» 2021年01月19日 07時03分 公開
[山下淳一郎ITmedia]
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 一方、知識や情報を使う仕事が中心となった今日、私たちの仕事は既に、「部下にただ命令すればいいというもの」でもないし、「上司の命令にただ従えばいいというもの」でもなくなっている。私たちの働き方は具体的にどのように変わったのだろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

知識労働者は意思決定をしなければならない。命令に従って行動すればよいというわけにはいかない。自らの貢献について責任を負わなければならない。自らが責任を負うものについては、他の誰よりも適切に意思決定をしなければならない。せっかくの意思決定が無視されるかもしれない。やがて左遷されたり、解雇されたりするかもしれない。だがその仕事をしているかぎり、仕事の目標や貢献は自らの手の中にある。従って、ものごとをなすべき者は皆エグゼクティブである。現代社会では、すべての者がエグゼクティブである。

ピーター・ドラッカー

 時代は既に、「上から下への指示による組織運営」から「一人ひとりの責任による組織運営」に変わった。ドラッカーの言う通り、組織で働く一人ひとりが自分の仕事に責任をもつエグゼクティブである。一人ひとりが成果をあげる人である。

第1に身につけるべき習慣

 力仕事が大半を占めていた時代に必要な能力は、「上が決めたことを正しく行う能力」だった。しかし、情報や知識を使う仕事が中心となった今日、必要な能力は、「自分で何が正しいかを決める能力」だ。ところが、私たちはいまだに、「上が決めたことを正しく行う能力」に軸足を置き、「上が下に指示をし、下はその指示に従う」という過去の慣習から抜け出せずにいる。

 実際、部下本人に意思決定させるべきことまで、上司が首を突っ込んで一から十まで指示をしたり、自分の貢献に責任をもって意思決定しなければならないのに、上にお伺いを立て、上が決めたことに従う形をつくり、責任を避けているのが現実だ。これが、過去の慣習から抜け出せていない姿だ。成果をあげるために身につけるべきはどんな習慣なのだろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

第一に身につけるべき習慣は、なされるべきことを考えることである。何かをしたいかではないことに留意してほしい。なされるべきことを考えることが成功の秘訣である。これを考えないならば、いかに有能であろうと成果をあげることはできない。

ピーター・ドラッカー

 なされるべきこととは、「やりたいわけでもない、頼まれたわけでもない。しかし、状況を客観的に考えると自分が果たすべき貢献はこれだ」といえるものだ。

自分が果たすべき貢献を考える

 大学から学長として引き抜かれた人がいた。教育課程はすべて彼に任せるということだった。彼は教育課程について十分な計画を練った。あとは実行するだけだった。ところが、学長に就任して学内の実情を見ると、深刻な財政難に陥っていることが分かった。もって10年、早くて5年で経営破綻しかねない危機的状況だった。

 彼のやりたい仕事は「教育課程の改革」だった。やろうと思えば、自分は「教育課程の改革」に専念し、「財政の立て直し」は誰かに任せることができた。しかしどんな大学も「財政の立て直し」ができるのは学長だけだった。そして、地域の人たちはこの大学が存続することを期待していた。

 彼は、なされるべきことを考えた。信頼できる人に学内のことを任せて、彼はやりたいわけでもない、頼まれたわけでもない、しかし、状況を客観的に考え、「財政の立て直し」という成果に精力を向けた。学長は「財政の立て直し」に成功し、大きな成果をあげた。こうして大学は救われた。どうすれば、この学長のようになされるべきことを考え、なされるべきことを見いだすことができるのだろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

外の世界に対する貢献に焦点を合わせることである。仕事ではなく成果に精力を向けることである。「期待されている成果は何か」からスタートすることである。      

ピーター・ドラッカー

 あなたが今期待されている成果は何だろう。次のブランクにあなたの答えを入れてみてほしい。成果をあげる人はそれを習慣にしている。

■上記の学長

  • 私のやりたいことは、「教育課程の改革」である。
  • しかし、なされるべきことは、「財政の立て直し」である。

■あなたの考え

  • 私のやりたいこと(またはやっていること)は「_______」である。
  • しかし、なされるべきことは、「_______」である。

(参考文献:次の書籍の中から一部引用させていただいた。『経営者の条件』)

著者プロフィール:山下淳一郎 ドラッカー専門の経営チームコンサルタント

ドラッカー専門の経営チームコンサルティングファーム トップマネジメント

東京都渋谷区出身。ドラッカーコンサルティング歴約33年。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカーを実践する支援を行う。中小企業の役員と上場企業の役員を経て、ドラッカーの理論に基づいた経営チームをつくるコンサルティングを行う、トップマネジメントを設立。現在は上場企業に「経営チームの研修」「経営幹部育成の研修」「後継者育成の研修」を行っている。 

著書に『ドラッカーが教える最強の後継者の育て方』(同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)、『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(同友館)、『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)、『ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(総合法令出版)、『ドラッカーのセミナー』(Kindle)、『ドラッカーが教える最強の事業承継の進め方』(Kindle)がある。主な連載に『ドラッカーに学ぶ成功する経営チームの作り方』(ITmedia エグゼクティブ)がある。ほか多数。


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