ANAがヒアラブル端末を空港スタッフに導入、期待を超える体験を模索(1/2 ページ)

コロナ禍で業績悪化に苦しむ航空業界だが、ANAではむしろDX推進のアクセルを踏み込んでいる。新しい成功モデルを模索する中、DXの取り組みが同社の体質を強くしているからだという。その一例が、空港スタッフへのヒアラブル端末の展開だ。

» 2021年11月01日 07時02分 公開
[浅井英二ITmedia]
ANA 野村泰一イノベーション推進部長

 「ANAではデジタルテクノロジーを活用することでコストを抑えながらも現場の業務はよりよくなっている。コロナ禍で新しい成功モデルを模索する中、DXの取り組みは、ANAを筋肉質に変え、カラダを強くしている」と話すのは、全日本空輸(ANA)のDXをけん引する野村泰一イノベーション推進部長だ。

 ご存じのように航空業界は、COVID-19の世界的な感染拡大の直撃を受け、旅客数の激減と業績悪化に苦しんでいる。旅客数がコロナ以前の水準に回復するのは2024年以降という厳しい予測もある。ANAでも大型旅客機の早期退役を進めるなど、さまざまな策を講じて経営の改善に取り組んできた。雇用を守るべく実施された、ほかの企業や自治体への大規模な出向も報道で伝えられており、記憶にも新しい。当然ながら従来型の大規模なシステム開発案件は止まっているが、DXの取り組みはコロナ禍にあっても、むしろアクセルが踏み込まれているという。その一例が、空港スタッフへのヒアラブル端末の展開だ。

課題があった無線機をIT部門が取り組む

 ANAでは2019年5月、ハワイ路線に大型旅客機エアバスA380をいち早く導入しているが、総二階建てという構造上、客室乗務員同士のコミュニケーションをどう円滑化するかが課題として浮上、耳に装着するヒアラブル端末「BONX Grip」を試験的に導入していた。「雪山で、滑りながら話したい」という想い(GoProにも通じる遊び心)から誕生したというBONX Gripは、スマホとBluetoothで接続し、アプリを介してグループ単位でクリアに会話できるのが特徴だ。

 一方、地上でもコミュニケーションの課題は似通っていた。安全運航の一翼を担っている空港スタッフ同士のコミュニケーションはこれまで無線機によって支えられてきたが、「よく聞き取れなかったり、聞き返しにくい」「手がふさがってしまう」「柔軟にグループが組みにくい」などの課題は放置されたままだった。何よりも無線機はIT部門がデザインに関わる領域という認識がなかったからだ。

 折しも、基幹の予約システムや顧客システムからお客さま情報を適宜活用することができる 「CX(Customer Experience)基盤」を核とした、カスタマージャーニー改善のための仮説検証サイクルが整ったのに合わせ、満を持して2020年4月から全ての空港スタッフにもタブレットの展開が始まることが決まる。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆