再エネを段階的に伸ばし、その間は天然ガスで需給ギャップを補う王道的なエネルギー転換方針がこれまでの主流であったが、ウクライナ侵攻に端を発したエネルギー危機と、欧州・日本を含む世界的な猛暑が、その道筋の修正を促しつつある。
ESG経営や脱炭素が、グローバル企業の主たる経営アジェンダとなり、先進的な取組みや計画が発表され続けて久しい。再エネを段階的に伸ばし、その間は天然ガスで需給ギャップを補う王道的なエネルギー転換方針がこれまでの主流であったが、ウクライナ侵攻に端を発したエネルギー危機と、欧州・日本を含む世界的な猛暑が、その道筋の修正を促しつつある。
2020年頃までは、相場変動こそあれ、エネルギーは資金さえ拠出すれば確保可能であることが大前提だった。ロシア産原油・ガスの調達が事実上難しくなり、資源価格が極端に高騰するなか、必要な資源量を確保できない/しづらい状況となったが、さらに世界的な猛暑が追い打ちをかけている。単に、空調向けの電力量が急増したことにとどまらない。フランスでは、河川の水温が上がり過ぎた結果、冷却機能の問題から、原発の出力を抑制せざるを得なくなるなど、間接的な影響も出てきている。
そもそも、エネルギー・資源は「ポートフォリオ」という表現が頻繁に使われるように、組合せの妙により、リスクを最小化し、リターン(効用)を最大化させる視点が重要だ。二酸化炭素排出量削減のみを御旗として単眼的に考えるべきではなく、本来、地政学や安定性なども含めて複眼的に捉えるべきである。
実際、天然ガスは、わが国にとってリスク要因になりつつある。ロシア産LNGの調達不安、価格高騰、欧州との争奪戦といったことに加え、そもそも常温保存ができず備蓄しづらい資源特性(原油は200日程度に対してLNGは15-20日程度の備蓄量)ゆえに臨機応変な対応がしづらい点もネックだ。加えて、温暖化対策上の利があるといえども、ガス購入が間接的に戦費につながる懸念もあれば、人道的な側面で天然ガスを取捨選択する必要も生じつつある。
水素は、原料・製造方法による環境負荷の違いによって、ブルー・グリーン・グレーなどの色分けがなされてきた。今後は、エネルギー・資源全般で、総合的な観点でグリーンかレッドかを判断する必要性が増大してくるだろう。その文脈で、ロシア産原油・ガスが「レッド」と色分けされるようになって全く不思議ではない。
冷戦終結後、各国・各地域が原材料調達から生産・販売などを最適に分担しあう高効率なサプライチェーンが、グローバル企業・経営に長らく繁栄をもたらしてきた。国際分業により、新興国含め世界経済全体に、発展・利益をもたらした点でも、その功績・意義は大きかった。
ウクライナ侵攻を機に、米中の緊張関係が増幅し、わが国でも台湾危機が懸念され始めている。それ以前から、米トランプ政権のMAGA(Make America Great Again)政策、中国の「中国製造2025」に代表される外国企業・製品排除の動きなど、自国中心主義が強まる胎動があった。
従い、ウクライナ侵攻や台湾危機を一過性の動きと捉えるのは危険であり、経済安保を強く意識せざるを得ない時代に突入したと認識すべきだ。実際、2022年5月に経済安保推進法案が議会で可決され、その前後に、日立製作所・三菱電機・デンソー・富士通など一部の大企業は、経済安保対応組織を新設する動きをとっている。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授