「レッドガス」時代の羅針盤【序章】――産業財・エネルギー領域のパラダイムシフト(2/2 ページ)

» 2022年10月17日 07時06分 公開
[五十嵐雅之ITmedia]
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 このテーマは極めて複雑性が高く、対処が難しい。サプライチェーンを分断させるリスク回避的な発想だけでは、商機・収益機会を失うことになり兼ねない。例えば、現状、行き場を失ったロシア産原油は、安価な資源として、中国・インド・トルコが受け皿となり、これら新興国産業の競争力向上につながる可能性がある。しかし、国際炭素税の議論と同じく、これら「レッド原油・ガス」から恩恵を受けた国からの製品輸入に対して、今後、西側諸国で新たな課税などの負担が課されたら、状況は一変する。

 デカップリング時代のグローバル経営は、不確実性が極めて高く、台湾危機など緊急事態が起きてから考えるのでは手遅れであり、起きる前に確りとした備えを行っておくことが重要だ。臨機応変なサプライチェーン・経営モデルの組み替え・対応力が、大企業のみならず中堅・中小企業にとっても、重要な局面となってきている。

「レッドガス」時代の重要アジェンダ

 このように、エネルギーを取り巻く事業環境が激変し、地政学的リスク・経済安保対応の必要性も格段に高まるなか、わが国の製造業・エネルギー関連企業が解決すべき/乗り越えるべき課題は何か。

 まず、エネルギー領域では、起源から消費に至る由来に応じて「色分けされた資源」を前提に、ゼロベースでビジネスを捉え直す必要があるだろう。無論、電力にもガスにも「色」は無く、何処でどのように生成され、どう流通してきたのかを意識することは、これまであまり無かった。環境負荷だけでなく安全・平和に寄与する「真のグリーン資源」と地域紛争・人道問題に絡んだ「レッド資源」への対応が、特に重要なポイントになってくるだろう。

 更に、地政学リスクの高まりと自国中心主義の行きつく先は、自国民の生命・社会生活を維持するための自給自足の議論につながってくる。企業経営にとっても無縁ではなく、食糧も含めた自給率向上をいかに図るかが主たるテーマとなるが、ことエネルギー領域では、循環型社会・ビジネスを創りだすことが、自国の安全保障だけでなく、脱炭素にも貢献しうる。循環型の価値・意義が飛躍的に高まり、ビジネス面でも魅力度が増してこよう。

 エネルギー領域以外でも、間接的な影響が当然及ぶ。前述の通り、サプライチェーンはある程度「鎖国型」への転換を迫られるが、平時には従来型の高効率・グローバル連携型も求められよう。つまり、良いとこ取り可能な「柔らかいサプライチェーン化」が求められ、その要諦は、サプライチェーン要素のモジュール化になる公算が大きい。

 経営環境が劇変するなか、わが国の企業がサステイナブルなグローバル経営を行っていくうえで、東京本社一極体制では、もはや通用しづらくなってくる。全体最適・統制を図りつつも、各地域がより自律性を発揮し、有事には完全独立できるような状態へと、企業構造・ビジネスモデルをトランスフォームしていくことがカギとなる。換言すれば、グローバル経営モデルのデカップリング化である。

 いずれにせよ、来たる「レッドガス」時代に向けては、抜本的なパラダイムシフトと企業変革が必須となる。そこで、次稿以降では、わが国の産業財・エネルギー企業に焦点を当てて、順次、求められる4つの重要アジェンダごとに背景・打ち手などを詳述するとともに、欧州の脱炭素を取り巻く最新の動向も洞察していきたい。

図:わが国の産業財・エネルギー企業に求められる重要アジェンダ

著者プロフィール

五十嵐 雅之(Masayuki Igarashi)

ローランド・ベルガー パートナー

早稲田大学理工学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(経営学修士)。米系ITコンサルティングファーム、国内系コンサルティングファーム、三菱商事を経て現職。総合商社、産業機械、ハイテク、エンジニアリング、公的機関、サービス業等を中心に、事業戦略立案、新規事業開発、事業計画・投資評価、マーケティング戦略、組織構造改革などのプロジェクト経験を豊富に持つ。異業種をつなぐことによる新たな価値創出・ビジネスモデル開発を志向したテーマに数多く従事。


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