トランスフォーメーションの羅針盤となるシナリオプランニングの重要性と活用手法(1/2 ページ)

不確実性が高い状況に置いて、特定のシナリオを正確に当てることは困難であり、複数のシナリオを想定しながら、時間の進行に伴い変数が確定することを見据ながら、柔軟に対応を進めていくことが現実的である。

» 2022年08月22日 07時09分 公開
[神谷洋次郎ITmedia]
Roland Berger

経営者を支えるシナリオプラニング

 ロシアがウクライナに侵攻し、国際情勢が大きく変化する中で、経済活動にも大きな影響が出た。欧州向けを中心としたサプライチェーンには大きな打撃となり、エネルギーなどの商品が高騰している。

 経営者にとって、国際紛争やその動向を見通すのはかなり困難だ。しかし、経済のグローバリゼーションが不可逆に進む中、自社事業にとって影響を与える事象を、全世界的に幅広く見る姿勢は重要である。

 昨今、多くの経営者にとって最も不確実性が高く、最も変化が求められることといえば、「脱炭素」やサーキュラーエコノミーの実現に向けた動きではないか。

 主要国で2050年のカーボンニュートラルに向けて目標が設定され、日本も2030年度に「2013年度対比46%削減」と大胆に 掲げている。エネルギー事業の経営者はもちろん、製造業やサービス産業に加え、2015年より“Scope3”排出量が認定要件されたことで、全産業が対象となる。

 将来的なカーボンニュートラルの実現は明確でも、それに至る道筋は決して明確ではない。既存事業の脱炭素化だけでなく、それによって事業構造転換を求められるケースもある。その最たるものは、エネルギーや化学業界ではないか。

 エネルギー業界では天然ガスなどの脱炭素化だけでなく、主力燃料・原料そのものを転換することも視野に入る。ただ、脱炭素化が起こす変化の規模は大きく、その変化全てに単独の企業がついていくのは困難である。

 例えば、エネルギー源として水素を活用をすることの促進が見込まれたとして、単独の企業が製造、輸送、販売までを一貫して行うのは事業リスクが大きく、容易ではない。

 では、どういった観点が経営判断のサポートとなるのか。欧州の再生可能エネルギーの開発動向、中国やインドのエネルギーミックス、水素の製造技術など、その動向が大きなインパクトを与える変数をウォッチし続ける必要があるだろう。

 しかし、先に述べたように現代は不確実性が高くなり、それらの変数を予測することが困難な状況となっている。そうであっても環境の変化に柔軟に対応するためには、2つの対策が欠かせないと考える。1つは、的確な変数の設定。そして、その設定に基づく複数のシナリオの用意だ。特に2点目において、企業のかじ取りにおける悩みを少しでも和らげるためにも「シナリオプランニング」を活用していく必要があるだろう。

“当てる”ためのシナリオではなく、“準備する”ためのシナリオ

 シナリオプランニングで肝心なのは、“当てる”シナリオを用意するのではなく、不確実性の幅を把握して、経営者として“準備する”シナリオを複数設定することだ。

 不確実性が高い状況に置いて、特定のシナリオを正確に当てることは困難であり、複数のシナリオを想定しながら、時間の進行に伴い変数が確定することを見据ながら、柔軟に対応を進めていくことが現実的である。

 そして、主要な変数が変わる状況に応じてシナリオを定期的に書き直し、社内での適切なコミュニケーションを通じて、全社の方向性を共有していくことが重要となってくる。更に、設定したシナリオを以下3点のアプローチで全社経営に活用することが重要ではないか。

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