コミュニティー意識を持ったり、価値観を共有したり、ビジョン・ミッションを共有したりするのが「3.0」の世界。
エグゼクティブの皆さまが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。
第6回から前回・第8回まで、キャリア自律やリーダーシップ論を専門とし『起業家のように企業で働く』『リーダーシップ3.0』など著書を多数出版している合同会社THS経営組織研究所の代表社員・小杉俊哉さんと当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容から、ポストコロナに向けてのリーダーシップの在り方についてお届けしてきました(2022年02月24日(木)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:ポストコロナのリーダーシップ」)。今回はいよいよそのまとめとして、「リーダーシップ3.0」「リーダーシップ4.0」を深掘りします。
「リーダーシップ3.0」企業とは、開かれた世界を作った上でいい状態で会社が運営されている企業を指します。
コミュニティー意識を持ったり、価値観を共有したり、ビジョン・ミッションを共有したりするのが「3.0」の世界です。
本人の意志によってそこを選び、そこに「居る」ことも「辞める」ことも「出入り自由」。だからこそ管理者は、きちんと自社、自組織を働く場として魅力的にしたり、チャンスを与え続けないといけない。そうでないといい人が来てくれませんし、いい人が辞めてしまうことになります。
グローバルのトレンドを振り返ると、1990年代は「ファイナンス」から「戦略」が重視される時代で、リーダーシップスタイルとしては「2.0」、変革のリーダーの段階でした。強いリーダーシップを発揮し、先頭で旗を振り、変革を行う。そして経営コンサルタントが介在して、競争優位性をなんとか築こうと戦略至上主義で行く。こうした経営スタイルが真っ盛りでした。
アメリカ企業もそういった指向が異常に強く、強いリーダーが株主にファイナンス面で報いようとしていました。株価を上げていかないと、逆にクビになってしまいますし、高い報酬ももらえない。それが非常に顕著になっていった時代です。
ではいま、どうかと言いますと、一般的に日本でみなさんが考えている以上に、グローバルでも支援型のリーダーシップに移行していると小杉さんは言います。
「必ずしも、サーバント・リーダーでなくてもいいんですね。ハーバードビジネス・スクールのリンダ・ヒル教授は「羊飼い型リーダー」と呼んでいます。(同スクールの前教授の)ビル・ジョージさんも<True North(人生の基軸)>を掲げて、自分をさらけ出し、弱みも見せて、一人一人と向き合うリーダーシップでなければならないと説きました。先頭で旗を振っているようなリーダーでは、逆にチームを動かすことができないと。こうした認識が急速に高まってきて、そういう教育をしているんですね」(小杉さん)
首根っこひっ捕まえて動かすのでは、どの国であれ人は動きません。
小杉さんは、上記に挙げたような教授たちも「トップダウンでは社員のやる気を削ぐ。人々が創意工夫したり、自分で何かを考えたりという気持ちを奪ってしまう」と指摘しています。経営学者や経営者たちも自ら、かつて大成功した変革のリーダーシップを「それではもうダメなんだ」と否定していますし、これが非常に大きな変化なのだと着目されています。
この背景としては、インターネットなどの発達により情報の透明度が増したこともあります。昔だとのぞき穴から見ていたようなものでも、ネット社会ではきちんと共有できます。というか、隠そうとしてもオープンにされてしまい、こうした透明化の作用もすごくあるのではないでしょうか。
ステークホルダーは、かつては株主だけだったのが、今は従業員、さまざまなパートナー企業、社会なども含まれるようになりました。また、株主はESG、SDGs、カーボンニュートラルなど、配慮しなければならないことに対して、全方位的に厳しい目を持っています。エンロンに代表されたような、かつての生き馬の目を抜くような剛腕スタイルがもてはやされることは、今や非常に少なくなっています。
言わずもがなですが、もはや「役職」や「ポジション」をエサに人を動かすことは非常に難しくなりました。特に40歳以下は、必ずしも報酬で動かない世代です。
「何のために働いているのか」とか「これをやることによってどう世の中に貢献できるのか」というパーパスを明確に掲げないと納得しません。
「与えられた仕事をやれ。やっていれば悪いようにはしないから」といった「1.5」スタイルでは、人は動きません。あるいは「2.0」のように「立ち止まるな。とにかく俺の通りやれ」スタイルでは、もはや誰も動かない時代になっています。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授