「3代目が会社をつぶす」なんて誰が言ったか。年商を100億円に倍増させた3代目の経営戦略未曾有の出来事が一人の人生を変えるきっかけに(1/2 ページ)

「3代目が会社をつぶす」という言葉がある。創業者や先代が苦労して成長させた会社を、その苦労を知らない3代目が、十分な経営能力もないまま社長になり、会社を傾けさせてしまうことである。その一方で、先代の跡を継いだ3代目社長が、旧態依然とした会社に改革を起こし、新たな発展に導くこともある。

» 2023年02月01日 07時07分 公開
[橋本淳ITmedia]
『理念ドリブン 旧態依然とした会社を継いだ3代目経営者の組織改革』(Amazon)

 祖父が戦後間もない昭和22(1947)年に富山市で紙加工メーカーとして創業し、父が跡を継いで経営していた段ボール製造会社「サクラパックス」の3代目社長に私が就任したのは、平成20(2008)年、会社に入社して12年がたったころでした。

 社内の主要な業務はすでに一通り経験していましたが、実際に社長の椅子に座ってみると、“このままではこの会社は潰れる……”と絶望するほど、会社はひどい状態でした。

 しかし、そこから奮起して14年の月日がたち、今では年商100億円を超える企業にまで成長させることができました。ここでは、私がどのようにして会社と社員たちを変え、成長することができたかを伝えたいと思います。

被災地でのボランティア活動で受けた感動がきっかけに

 最初に“この会社は潰れる”と書きましたが、実は会社の業績は決して悪いものではなく、むしろ好調で、父の代では赤字を一度も計上したことがないほどでした。では何に絶望したかというと、それは社員たちの仕事に対する姿勢でした。

 というのも、会社は父のワンマン経営を30年以上続けて大きく成長したため、役員は財務諸表の読み方すら知らず、営業担当者は得意先を回って注文を取りに行くだけ。工場は指示されたままに機械を動かして段ボールを作るだけ。会社全体が注文をこなすためだけに回っていて、社員たちの誰からも生き生きとした表情を見ることができない状態だったのです。

 これは会社を一から作り直さないといけない。それには自分の経営にしっかりとした軸を作らないといけない。そう思ってまず始めたのが経営について徹底的に学ぶことで、古今東西の何百冊という本を読みあさり、数多くの経営セミナーに足を運びました。数年もの間、来る日も来る日も寸暇を惜しんで、ただ経営のことを学び続けたのです。

 そこで学んだなかで最も心に響いたのが、会社経営の全ての核となり、社員を1つにまとめる確固とした経営理念の大切さでした。

 私が自分の会社に貫くべき経営理念とは何なのか――。それを探り続けて頭を悩ませていた時、東日本大震災が起こりました。当時の私は日本青年会議所の防災・減災を担当する副会頭で、被災地でのボランティア活動では全国の青年会議所の被災地支援活動の責任者を務めました。

 ある日、現地でのボランディア活動を終えて車で富山に帰る際、被災者の方々がいつまでも深々と頭を下げて私たちを見送ってくれている姿を見てショックを受けるほど感動しました。その時に私は「誰かの笑顔のために生きていこう。1人でも多くの人を笑顔にしよう」という思いを心に強く刻みました。

 この経験から、「笑顔のために」を会社の理念にすることにしたのです。

会社の理念を社員に腹落ちさせるために

 それから私は会社の若手幹部約50人と議論を重ね、経営理念を「ハートのリレーで笑顔を創り、世界の和をつなぐ。」と定めました。これは、「100年後も段ボール事業をしているか分からないが、お客さまの笑顔を届ける仕事をしていきたい」という思いを込めています。

 ただ、いくら立派な理念があっても、それが社員の腹に落ちて、働くうえでの目標として各自の行動の指針にするのは簡単なことではありません。そこで私は、これまで自分が経営について学んできたなかで共感したものを吟味してまとめた『サクライズムブック』という冊子を作り、会社の“バイブル”として社員全員に配布しました。冊子といっても250ページ近くありますが、大きさは新書判ほどで携帯しやすく、必要な時にすぐ参照できるようになっています。

 この冊子は「理念とビジョン」「基礎力を高める」「従業員を笑顔に」「顧客を笑顔に」「競争力のある会社づくり」「新しい分野への進出」「世の中を笑顔に」「仕組み」の8章からなります。その中に「利益は目的ではなく目標である」「『幸せ』と『成功』は違う」といったワンフレーズの見出しが86あり、それについて数行から15行程度のコメントが記されています。

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