「3代目が会社をつぶす」なんて誰が言ったか。年商を100億円に倍増させた3代目の経営戦略未曾有の出来事が一人の人生を変えるきっかけに(2/2 ページ)

» 2023年02月01日 07時07分 公開
[橋本淳ITmedia]
前のページへ 1|2       

 これを配布して社員に読ませるだけで終わりにはしません。毎週月曜日に開く幹部社員との全体会議で私が30分かけて内容について話すだけでなく、会議やミーティングの冒頭で、86ある見出しの1つを取り上げ、出席者全員が1人20秒以内でそれについて自分の意見をコメントさせています。

 単に冊子を読むだけでなく、自分の意見をアウトプットすることで、その内容が自分の腹に落ちてくるからです。これを何年も地道に続けていくことで、社員の間に「お客さま本位」「お客さまの笑顔のために」の理念が徐々に浸透し、仕事に対する姿勢が大きく変わってきたことを実感しました。

「うちが何を売る」から「お客さまが必要なものは何か」へ

 先代社長のワンマン経営の時代には、売り上げ何十億円という数値目標と簡単な方針が社長から出されるだけで、それが未達だった場合の反省もなく、社員たちは社長の次の指示を待つだけでした。

 しかし、「お客さま本位」「お客さまの笑顔のために」の理念が社内に浸透してくると、社員たちの間の会話が「うちが何を売る」から「お客さまが必要なものは何か」へと、顧客が主語になってきました。そのため、これまでは単に商品を運ぶ段ボール箱を作って売っていたのが、顧客が必要とする段ボールを企画し、提案するようになりました。

 例えば、PC関連製品や家電製品などを入れる段ボール箱の内部に、緩衝材を兼ねて付属品の形や大きさに合わせて設計した組み立て式の段ボールを入れることで、本体だけでなく付属品も整然と入れることができるようになります。これにより、これまで緩衝材として使ってきた発泡スチロールの大量使用から脱することができ、環境保護対策にもなります。

 また、デザイン性や高級感、強度のある印刷紙器を段ボール箱で作ることで、製品を運ぶ時に使うだけでなく、小売店の店頭でそのままディスプレイとして使うこともできるようになります。

 さらには、プラスチック製の段ボールを開発し、繰り返し使えるようにすることで、経費削減や環境負荷の低減につながります。これらはいずれも、以前の「うちは段ボール屋だから段ボールを作って売っていればいい」という“自社本位”の発想の時にはできなかったことです。

社員たちが生き生きと躍動する会社に

 これらの「お客さま本位」の取り組みにより提案の幅が広がり、弊社は段ボール製造業から、包装設計、軟包装、印刷などを含むトータルパッケージサービス業へと変貌を遂げることができたのです。

 そのため弊社は「本業についての話ができ、売り上げや利益につながるアイデアもくれる」「面白い提案が出てくる」ユニークな段ボール会社として認知されるようになり、それに合わせて売り上げや利益率も目に見えて向上してきました。

 私が会社を引き継いだ2008年はリーマンショックの影響もあり売り上げは65億円と低迷しましたが、その後は右肩上がりの上昇を続け、2015年には80億円、2020年はコロナ禍にもかかわらず、ついに100億円に達しました。社長就任以来12年ほどの間に、年商を倍近く伸ばしたことになります。

 経常利益率も、段ボール業界の平均値は2%程度と低く、先代社長時代もそれと同様かやや上回る程度だったのが、現在はコンスタントに8%近くに達しており、10%を超える年もあります。もちろん無借金経営で、自己資本比率は83%にまで高めることができました。

 弊社はもうワンマン社長の会社ではありません。私たちが扱っている段ボールには、多くの可能性があることに社員たちは気づいています。その原動力となったのが、「お客さま本位」と「笑顔のために」という理念経営です。

 社長の本来の役割は、会社の運営ではなく事業を拡大し、新しい事業を興して会社を発展に導いていくことです。経営理念という会社の基礎が固まった今、これからは本来の社長業にまい進し、社員たちが生き生きと躍動する会社にしたいと思っています。

著者プロフィール:橋本淳

サクラパックス株式会社 代表取締役社長。1971年富山県富山市生まれ。1994年法政大学経営学部卒業、1996年11月サクラパックス株式会社入社。専務、副社長を経て2008年、代表取締役社長に就任。2011年に日本青年会議所副会頭を務め、防災担当として東日本大震災の復興に取り組む。2022年 富山商工会議所 副会頭に着任。社長就任後、会社を創造性豊かな企業へと大きく作り変えた。現在はトータルパッケージサービス企業として事業領域を拡大し、社会貢献事業も多く手掛け、社員316人の北陸屈指の有望企業となっている。著書に『理念ドリブン 旧態依然とした会社を継いだ3代目経営者の組織改革』(幻冬舎 2022年3月18日発行)がある。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆