人的資本を生かすリーダーになるためにTMOに求められる7つの能力とはITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

これまでの企業経営では、人材は資源(リソース)であり、消費することで成果を上げていた。しかし人材の流動化が激しくなった現在、人材は資本(キャピタル)であり、人材が保有しているスキルや知識、経験に投資して、より高めていくことが必要になる。

» 2023年01月18日 07時05分 公開
[山下竜大ITmedia]
『人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書』(Amazon)

 ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、NEWONE 代表取締役社長である上林周平氏が登場。2022年7月30日に発刊された著書『人的資本の活かしかた( アスコム)』の内容に基づいて、『人的資本を活かせる企業とは? 人を活かすのは「最強のボス」ではなく「弱いリーダー」?!「人的資本経営」元年からはじまるこれからの管理職』をテーマに講演した。

人を大切にする経営と人的資本経営では何が違うのか

NEWONE 代表取締役社長 上林周平氏

 経済産業省では、人的資本経営を「人材を“資本”として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方」と定義している。一方、日本企業には、昔から「人を大切にする経営」という言葉もある。人的資本経営と人を大切にする経営では何が違うのか。

 人を大切にする経営は、会社が上位で個人が雇われ、従属関係と終身雇用の中で、家族のように大切に面倒を見る、人材を「資産」として考える経営である。一方、人的資本経営は、時代が変わり終身雇用ではなくなり、家族的でもなくなってきた中で、人材を「資本」として考え、会社と個人が対等な関係になる経営である。

 「人的資本経営は、当初は欧州で注目され、ドイツ銀行などで始まりました。その背景に、産業構造の変化が挙げられます。例えば、アップルのトップデザイナーが退任を発表した日に、会社の時価総額が約1兆円下落したというニュースがありました。いまや人材は、時価総額に影響するぐらいに重要になっています」(上林氏)

 また2018年12月には、国際標準化推進機構(ISO)が「ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)」を発表したほか、2020年8月には、米国証券取引委員会(SEC)が約30年ぶりに上場企業へ情報開示ルールを変更し、人的資本情報の開示が必要になっていることなども背景にある。

 日本でも、2021年6月に東京証券取引所からコーポレートガバナンス・コードにかかわる有価証券上場規定の一部改正が発表され、「企業の中核人材における多様性の確保」において、「多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表」することが求められている。

 上林氏は、「ポイントは、大きく3つあります。1つ目が人材戦略と経営戦略をひもづけること、2つ目が人的資本を開示すること、3つ目が人的資本を最大化することです。日本では2030年に640万人の労働力が不足するとされており、どれだけ人材に投資をし、大切にしているかをアピールしなければ、人材を採用することもできません」と話している。

映画「マネーボール」に学ぶ人的資本経営の在り方

 人材戦略と経営戦略をひもづけ、人的資本を開示し、人的資本を最大化するための具体例として上林氏は、2011年に公開された米国の映画「マネーボール」を紹介。マネーボールは、米国大リーグの貧乏球団のゼネラルマネージャーが、独自の理論である「マネーボール理論」で、球団を常勝球団に変えていく過程を描いた事実に基づく話である。

 学生時代にエースで4番の選手は、高い年俸が必要なためお金のない弱小球団は獲得することが困難だ。「マネーボール」では、例えば出塁率が高い選手がいると勝率が高まるなど、勝利につながる条件は何かをデータで分析し、いまは注目されていないが、出塁率の高い選手を安い年俸で獲得し、育てることで球団を強くした。

 「企業も同じで、常に優秀な人材を採用するのは困難です。自分の部下がエースで4番ばかりならと誰もが思いますが、現実的にはほとんど期待できません。そこでリーダーは、エースで4番を追い求めるだけでなく、自社が勝つために出塁率の高い人材を見つけ、最大限に活用し、成果を上げていくことが必要です」(上林氏)。

 それでは、人的資本経営の時代におけるリーダーの役割とはなにか。立教大学経営学部教授の中原淳氏の著書『駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する(中公新書ラクレ)』には、「他者によって物事が成し遂げられる状態」をつくることがリーダーの役割であると書いてある。

 上林氏は、「マネジメントとは、短期の業績を上げながら長期の伏線を張るという、そもそも矛盾していることを追い求めることであり、そのためにリーダーは、エキスパートとして、自分の在り方の一部を自分以外の人に任せることが求められます。矛盾をうまくマネジメントし、全ての仕事のバランスをとることがリーダーの役割です」と話す。

 人材を生かしていくことはもちろん、時代の変化をとらえた対応もリーダーにとって必要な資質の1つである。例えば 1988年のテレビCMに「24時間戦えますか」というフレーズがあり、その年の流行語大賞にもノミネートされたが、このテレビCMをいま放送するとSNSで確実に炎上する。マネジメントの基本も同様である。

 また、これまでのように人材を大量に採用して管理するのは困難なので、自分自身で人材を採用したり、外部とコラボレーションしたりして、少数精鋭でレバレッジをかけることができるチーム作りも求められる。上林氏は、「中間管理職といわれる感覚から、チーム全体を束ねるチーム経営責任者(TMO)といった感覚を持つことが必要です」と話す。

 これまでの中間管理職の役割とTMOの役割の違いは、大きく以下の5つである。

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