ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、日本医療科学大学兼任教授/東京国際大学准教授で精神科医の岩瀬利郎氏が登場。「発達障害の人が見ている世界」をテーマとして講演で、最近、ニュースやSNSなどで見かけることが多くなった「発達障害」について理解し、ともに生きるのが楽しくなるヒントついて紹介した。
岩瀬氏は、「発達障害の問題は、子どもだけでなく、大人も同様です。以前は、発達障害や自閉症は子どもの病気で、大人の発達障害という認識はありませんでした。大人が発達障害と診断されるようになったのは10〜15年前です。スペクトラム診断により間口が広がり、かつては子どもの病気と思われていたが、大人にもあるということが分かってきました」と話す。
それでは、発達障害は増えているのか。岩瀬氏は、「増えているのではなく、もともと身の回りにいて、生きづらさを抱えている人たちは一定数いました。昨今は発達障害と診断されたほうが、本人も、周囲も、救いがあると考えています」と話す。
例えば、空気が読めない、仕事ができないなど、新入社員の早期離職が増えているが、その中には発達障害の人も含まれている。ネットで発達障害について検索し、自己診断する人の割合も爆発的に増えているが、それに対する医師の知識不足、経験不足により、対応できないことも増えている。
「発達障害の人はモノの見方や考え方が独特です。相手の身になって考えることが苦手な傾向にあります。要するに空気が読めないことがあります。発達障害の人がどのようにこの世界を認知しているのか理解する必要があります。発達障害を持つ人の“見ている世界”を知ることで、お互いにもっと生きやすくなることが期待できます」(岩瀬氏)
一般的には発達障害という呼び方をされるが、現在は「神経発達症」と呼ぶ動きも出始めている。先天的な脳の機能的な問題と考えられており「特性」とも呼ばれる。発達障害の人たちが、どのような世界を見ているのか、認知のしかたを周囲の人たちが想像できるようになるだけで、結果的に職場における部下や同僚とのコミュニケーションも変わってくる。
発達障害は、以前は自閉症、広汎性発達障害(PDD)、アスペルガー障害に分類されていたが、現在は自閉スペクトラム症(ASD)にまとめられている。スペクトラムは、簡単に言えば境界は明確でなく、虹のように色分けしたグラデーションの状態である。それとは別に、ADHD、限局性学習症(SLD)、チック症・トゥレット障害などもある。
「発達障害は、精神疾患である、適応障害や、うつ病・双極性障害、不安障害、パーソナリティー障害など、二次的問題を抱えやすいことも特徴の1つ。精神疾患との合併もあるので、通常の診療においてもトピックになっています。また、虐待・ネグレクト、いじめ、複雑性PTSD、アタッチメント(愛着)課題など、発達特性の問題もあります。現在の問題と発達障害は密接に関わっています」(岩瀬氏)。
ASDは、幼少期からの認知や高度面の特有な様式を有する発達障害の一形式で、英国の精神科医であるローナ・ウイングは、以下の3つの特徴を持つ「Wing の三つ組」を提唱している。
ローナ・ウイングの三つ組には出てこないが、以下の特徴も重要になる。
岩瀬氏は、「診断に必要なのは、(1)〜(4)の特性が子どものころから存在していることです。思春期以降にこのような特性が現れた場合は、別の診断の可能性もあります」と話している。
実際にどのような診断をするかということだが、「サリーとアン課題」が有名である。サリーとアン課題は、心の理論ともいわれ、他人の心の動きを推し量ることができるか、できないかを判断するテストである。自閉スペクトラム症があると、サリーとアン課題の失敗が多いと言われている。
それでは、どんな人が相談に来るのかといえば、以下の通りである。
(1)大学生
高校までは決まったレールに乗っていれば大丈夫だったが、大学に入ると友人関係や教員との関係も能動性が必要とされる。
(2)新社会人
ほうれんそうスキル、チーム作業、強調性が必要になる。業務の進行、スピード重視。高機能の人ほど困り感が強い。幼少から大学までは優秀だったのに、使えない社会人という現実を受け入れられない。
また社会・産業構造の変化もある。例えば、IT化、グローバル化に基づく効率重視・スピード重視の風潮や終身雇用制度の崩壊、非正規化の加速、ほうれんそうスキルの重視など。ジェネラリストとしての雇用が主体で、スペシャリストは敬遠される企業が多く、新卒一括採用で同調圧力が強いことも挙げられる。
岩瀬氏は、「発達障害とは、発達の違いであり、ゆっくりでも発達はできることを理解してほしいと思っています。また発達の凸凹であり、特性に合った環境、現場を用意することが必要です」と話す。
ADHDは、前頭前野の機能不全で、実行機能障害や報酬系機能障害などの症状がある。基本症状として。以下の3つがある。
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