2024年問題 バス停に「乗務員不足で臨時ダイヤ」の表示 建設、医療にも影響

残業規制強化で人手不足が深刻になると懸念される「2024年問題」。物流だけでなく、交通や建設、医療など、さまざまな分野への影響が懸念されている。

» 2023年11月08日 09時06分 公開
[産経新聞]
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 残業規制強化で人手不足が深刻になると懸念される「2024年問題」。物流だけでなく、交通や建設、医療など、さまざまな分野への影響が懸念されている。

バス停の電光掲示板には減便を知らせるテロップが流れる=10月19日、東京都武蔵野市のJR吉祥寺駅前(古賀達朗撮影)

小田急バス、週243減便

 10月中旬の平日正午ごろ、JR吉祥寺駅(東京都)前のバス停で、乗客が長い列を作っていた。電光掲示板には「乗務員不足のため一部路線を臨時ダイヤで運行しております」と減便を伝えるテロップが流れている。

 同駅発着の路線を多く持つ小田急バスは、8〜9月に複数の運転手が新型コロナウイルスなどに感染し、人員確保が難しくなり順次減便。10月28日には同駅発着の平日便など、週計243便を減らしたままの便数でダイヤ改正に踏み切った。

 近隣からバスで買い物に来た60代主婦は「バスは駅へ行くのに欠かせない足なので、これ以上減ると困ることになりそう」と話す。

 同社は運転手の処遇改善や他社からの出向受け入れなど対策を進めているが、担当者は「業界全体で運転手のなり手が少なく、政策的な支援が必要だ」と頭を悩ませる。

 日本バス協会の試算では、現在の路線網を維持した場合、7年後には3万6千人の運転手が不足する見込み。同様の問題はタクシーなど交通業界全体に及んでおり、一般ドライバーが自家用車を使って有償で乗客を運ぶ「ライドシェア」の導入議論も活発化している。

 残業規制強化で人手不足がさらに深刻になると懸念される2024年問題」の主な要因には、少子化などによる担い手の減少が挙がる。

 情報サービス大手のシンクタンク、リクルートワークス研究所が実施した職種別の担い手需給予測では、トラックや交通業の運転手を含む輸送・機械運転・運搬は令和6年段階で需要に対して約9万人が不足。そのほか、建設は約3万人不足、保健医療専門職は需給がほぼ均衡となった。不足幅は徐々に拡大していく予測。また、2024年問題は加味されておらず、実際はさらなる状況の悪化が見込まれるという。

建設業、人手不足が倒産の要因に

 最近では人手不足が2025年大阪・関西万博の会場建設にも影響していることで、注目を浴びている建設業界。従来の3K(キツい・汚い・危険)のイメージに、長時間労働なども重なって新卒応募の減少が進む。

 帝国データバンクの調査によると、今年に入って建設関連企業の倒産件数は、過去5年で最悪のペースとなっている。倒産要因の最多は資材価格高騰だが、担い手不足や給与への不満による従業員の離職などで「受注や施工そのものがままならないケースが目立ち始めた」(同社)。今後、地方では住宅建設や道路の修繕が進まない事態が相次ぐ恐れもあるという。

 急務となるのは、週休2日の確保や長時間労働の改善、賃上げなど。適正な工期での受発注の促進など一部で対策は進むが、従事者の減少に歯止めはかかっていない。

 医療現場も例外ではない。厚生労働省の令和4年実施の調査で、新たな時間外労働時間の主な上限値となる年960時間を超える勤務医は改善されつつ、なお2割を超えた。

 同省は負担緩和に向けて医師数を増やす施策を進めているが、高齢化などで医療ニーズも増加。首都圏にある大学病院の担当者は「例えば当直明けに手術をするのは避けようなどの意識は芽生えてきているが、専門医の数がそもそも不足していて負担を軽減できない。病院側だけで解決できる話ではない」と話す。

 不足する医師は地域や診療科によって偏りがあるため一概には言えないが、今後は夜間救急の休止や手術の延期、地元の病院で出産ができないなどの影響も懸念される。

働き手重視の意識改革を

 担い手需給予測を担当したリクルートワークス研究所の古屋星斗主任研究員は、今回の働き方改革は持続性の観点から必要と強調。その上で「生活の根幹を担うサービスの低下は人々の生活にかかる時間を削る。生活と経済、両方の効率低下を招いて悪循環となるが、それでは経済成長は見込めない。今後は『働き手は神様』との意識で臨むべきだ」と語った。(福田涼太郎、古賀達朗)

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