ドラッカーに学ぶ「部下に成果を上げさせるために、上司がするべきたった1つのこと」とは?ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

「マネジメント」という概念を一般に広めた経営学者、ピーター・ドラッカー。著書『マネジメント』などで語られている彼の言葉には、21世紀の現代にも通じる経営に役立つ考え方がつまっている。ドラッカーの理論で経営チームのコンサルティングを行う山下淳一郎氏に、3回にわたりドラッカーの教えに基づいた部下に成果をあげさせるための方法を学ぶ。

» 2023年11月14日 07時04分 公開
[松弥々子ITmedia]
トップマネジメント代表取締役 山下淳一郎氏

 ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、トップマネジメント代表取締役の山下淳一郎氏が登場。山下氏が設立したトップマネジメントでは、上場企業を始めとして、IT企業の経営チームにドラッカーの理論を活用するコンサルティングを提供している。

 ドラッカーの専門家である山下氏は、全3回にわたり『ドラッカーに学ぶ「部下に成果をあげさせる上司5つの実践」』と銘打った勉強会を行う予定となっており、今回が第1回目で、テーマは「上司がしなければならない1つのこと」。ドラッカーは、上司は部下に何をしなければいけないと言っているのだろうか。

 「ドラッカーは“働く人は成果を上げれば意欲を高める。さもなければ意欲を失う”と言っています。モチベーションが高いから成果が上がると考えられがちですが、それは逆であり、成果が上がるからモチベーションが高まるのです。部下が成果を上げられるようにすることこそが、上司の仕事です」(山下氏)

マネジメントとは何か

『超訳ドラッカーの言葉』(Amazon)

 1776年、蒸気式機関車が発明されたことをきっかけに、製品の大量生産が始まった。製品を大量に作り出すためには組織的な生産が必要となり、組織社会というものが生まれた。組織はさまざまな個性を持った個人が所属しており、一人ひとり特徴も気質も価値観も違う。組織は個人の持つスキルだけを雇うことはできず、“個性とスキルを持った個人”を雇うこととなる。そのため、人間の好き嫌いや相性といったスキル以外の側面が、生産性に影響を及ぼす場合がある。

 「機械であれば、1台を10台に増やせば、生産性が10倍になります。しかし、人間はそんなに単純ではないですよね。どうすれば従業員たちと力を合わせて成果を上げることができるのか、こんな壁にぶつかったところからマネジメントというものが自然発生的に生まれてきました。マネジメントとは、“力を合わせて成果を上げること”です。管理することではありません」(山下氏)

 18世紀に始まった大量生産から生まれたマネジメントという概念だが、現在では“成果を上げる”ための方法論が変わってきている。18世紀の時代は労働者のほとんどは単純労働者(マニュアルワーカー)だったが、現在では知識を使い情報成果を上げる仕事に従事する知識労働者が増えている。

 単純労働者が多い時代はトップダウンが組織運営の基本だった。指示命令することが上司の仕事であり、部下は言われた通りに働く。しかし現代の知識労働者はどういった業務を行うか、どういう成果を上げるべきか、“What”から考える必要がある。このように従業員の労働のあり方が変わっているのに、以前のままに単純労働者向けのマネジメントを行なっていても、成果は上がらない。

 知識労働者である部下にすぐれた仕事をしてもらい、成果を上げるためには、自発性が必要となる。かつては『決めること』が上司の仕事だったが、現在は部下に“決めさせること”が重要なのだ。情報や知識を使って成果を上げる知識労働者は、やらされ感では仕事をしない。すぐれた仕事をするには、自己決定感は必要不可欠と言える。

 現代の知識労働者に対するマネジメントとは、部下を動かすことではなく、部下を方向づけすることとも言える。いかに部下に成果を上げさせるか、これが現代の上司の仕事なのだ。

 「ドラッカーは“成功の鍵は責任である”と言っています。この責任は、自分がこの仕事の最終責任者なのだという意識のことです」(山下氏)

権限と責任を明確にする際に絶対に押さえておかないといけない2つの法則

 1つ目の法則は、「可能な限り現場に権限委譲を行うこと」だ。仕事を任せたつもりでも、権限を与えていなければ、いちいち上司の承認を取る必要が出てくる。例えば、こんな話がある。海外で新規顧客開拓を任されたが、その業務内容はほぼ顧客への値引き対応だった。しかし、自身に値引きの権限を与えられていなかったため、顧客からの値下げ要求を上司に確認し、上司が承認した値引き以外は対応することができなかった。そのため、新規顧客との交渉がうまく進まず、ほとんど開拓が進まなかった……。

 「最低限の責任と最低限の権限すらも与えられていなければ、本来成功するはずの仕事でもあってもうまくできません。担当者にとっては、自分の考えを理解してくれなかった上司の判断が原因で、自分は顧客開拓を成功させることができなかったと、自分の仕事のやり方を改めようという気すらおきません」(山下氏)

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