DXを推進する多くの企業が一貫性のあるデータを活用するデータドリブン経営の実現を目標としているが、そのためには決別すべき従来の価値観や、標準装備すべき仕組みがあり、そのための体制づくりが欠かせない。
アイティメディアが主催するライブ配信セミナー「ITmedia DX Summit Vol.18 ITmedia エグゼクティブ DXセミナー データ駆動経営とそれを支える次世代エンタープライズシステム」の基調講演に、アイ・ティ・アール(ITR)プリンシパル・アナリストの浅利浩一氏が登場。同氏が実際にコンサルティングをしている3社の基幹システム刷新プロジェクトの現場からのフィードバックも交え、講演テーマでもある「データドリブン経営の実現に向けたビジネス基盤の確立」について紹介した。
2002年よりITRのアナリストとして、エンタープライズシステムの全領域を担当している浅利氏は講演の冒頭、次のように話した。
「DXを推進する多くの企業が、一貫性のあるデータを活用するデータドリブン経営を不可欠な目標としています。データは業務プロセスやシステムと不可分であり、エンド・ツー・エンドの起承転結で再構成しなければなりません。そのためには、決別すべき従来の価値観や標準装備すべき仕組みがあります。また、データを活用し続けるための体制づくりも欠かせません。企業は、エンタープライズシステム刷新を契機とした変革を推進していくべきです」
データドリブン経営の実現に向けたビジネス基盤の確立のための論点として浅利氏は、大きく以下の3つを挙げている。
(1)基幹系システムのクラウド化とアーキテクチャが混在する時代
(2)アーキテクチャの混在と脱サイロ化に向けて強化すべき施策
(3)データドリブンな三位一体の経営基盤の確立
ITRが毎年実施している「IT投資動向調査2023」では、DXとクラウドが最重要テーマとなっている。2022年に企業が重視したテーマの1位は「全社的なデジタルビジネス戦略の策定」であり、2位が「基幹系システムのクラウド化の実践」だった。この結果は、2021年も同じだった。3位〜8位の重要テーマに関しては、定着したら順位が下がり、変化があれば順位が上がるが、9位の「レガシーシステムの撤廃」と10位の「マルチクラウド環境の採用」は2021年と2022年で同率である。
浅利氏は、「DX推進のための戦略の策定が1位であるのは納得ですが、2位の基幹システムのクラウド化の実践に関しては、よく“クラウド化で何が変わるのか、単なる再構築ではないのか”ということを耳にします。クラウド化は、単に新しいテクノロジーで同じものを再現するだけでは投資の価値はありません。最新技術の取り込みや新規システムの構築が、柔軟かつ迅速に行えるように、インフラからアプリ、データ基盤、それらを運用するライフサイクルまでの体制の整備も含めて取り組むことが重要です」と話す。
一方、DX推進で多くの企業が重視しているのが、経営戦略の中にデジタル戦略のビジョンや方針が位置づけられていること、デジタル戦略を専属で担う役員(CDO)が任命されていることの2つである。いわゆる枠組み作りから実行段階のフェーズに入っている企業が多く、それに伴う戦力の投入を重視している。また部門を横断したデータ活用が行える仕組みやプロセスの整備に着手していることも重要な取り組みであり、一貫性のあるデータを事業横断で活用していくことがデータドリブン経営に直結する。
次に国内ERP市場の動向では、現状、オンプレミス、IaaS、SaaSという3つの利用形態がある。浅利氏は、「この調査も毎年していますが、2019年以降、新たに導入される基幹システムは、SaaSとIaaSで稼働するクラウドERPが主流で、2022年は約80%がクラウドERPであり、2026年には90%以上がクラウドERPの新規導入になると予測されています。しかし、既存のERPおよび基幹系システムに関しては、当面、クラウド、オンプレミス、レガシーが混在し、この状況は2030年ごろまで続くと予測されています」と話している。
クラウド、オンプレミス、レガシーなど、アーキテクチャの混在は、いまに始まったことではない。ITRが発行している「ITR Review」の2008年10月号「企業ITアーキテクチャへの取り組み(#R-208101)」では、多くの企業が「システムが老朽化している」「プラットフォームが事業ごとに個別になっている」「システムが冗長で乱立している」「グローバルのビジネス展開に対応できない」「システムがどのような状態なのか可視化できない」などの課題を抱えていた。
「企業が抱えるアーキテクチャ混在の課題に対し、ITRではさまざまなコンサルティングを行ってきましたが、15年経ってテクノロジーやキーワードは多少変化したものの本質はあまり変化していません。特に、システムが冗長、乱立という状況は、抜本的な対策がなされていません。こうした状況を、システムのサイロ化と呼んでいますが、サイロ化したシステムにはアーキテクチャがなく、部分最適のシステムが乱立している状態で、データに関しても会社全体で一元化されていません」(浅利氏)
サイロ化したシステムを、全社最適されたシステムに変革し、非連続で不確実な時代において、デジタル変革の推進による多様なビジネスニーズを実現していくためには、全社視野で論理的に整合性の取れたビジネス、データ、アプリケーション、テクノロジーのデザインとマネジメントの枠組みが不可欠となる。浅利氏は、「何か1つを導入すれば、最適化されたシステムを実現できるわけではありません。またサイロ化したシステムから脱却する場合、決別すべき価値観があります」と話す。
エンタープライズシステムの入り口から出口までを再構成する中で、サイロ化、レガシー化したシステムをクラウドERPに刷新する場合、「ユーザーフレンドリー」からの決別が必要になる。ユーザーフレンドリーとは、いわゆる「使い勝手」であり、QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)と言い換えることもできる。QCDは、これまでの価値観が邪魔をしてなかなか変えられないのが実情。基幹系システムを刷新するときの課題や問題認識、新システムへの期待に関して、以下の6つがある。
(1)一画面で入力項目が網羅され手数が少ない
(2)事業・業務固有のデータ項目や機能がある
(3)例外的な機能や一括処理機能もある
(4)誤りを防ぐために関連チェックがかかる
(5)間違ったデータの修正や遡及が容易にできる
(6)操作マニュアルやヘルプが詳述されている
浅利氏は、「手数が少ないことが企業価値につながるのであればそれでよいのですが、オペレーションそのものをシンプルにできれば手数の多い、少ないは関係ありません。6つの欠点があったとしても、基幹系システム全体のスループットが向上し、利益が上がれば問題ありません。もし利益が上がらないのであれば、オペレーションのシンプル化と全体のスループットの追及のどちらを大事にするかを判断することが必要です」と話す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授