サイロ化している、していないにかかわらず、単一のシステムで一定規模以上の企業がビジネスを推進することは難しい。そこで標準装備すべき仕組みとして、固定部分と変動部分で構成される企業アーキテクチャの最小構成を構築することが重要になる。固定部分は、マスターデータを一貫して管理し、どのようなシステムでもインテグレーションハブを介してデータをつなぎ、SOI(Systems Of Intelligence)で可視化する仕組み。固定部分はあらゆる企業が持つべき仕組みで、変動部分の変化を吸収する。
「現在、世界中で稼働している基幹系システムが、この最小構成をベースにデザインされ、アーキテクチャの混在を吸収しているといっても過言ではありません。ビジネス環境の変化が激しい現在、変化に迅速かつ柔軟に対応するための固定部分を持っておくことが不可欠です。この仕組みは大企業に限らず、中堅企業においても有効になります。またこれからは、自社だけでなく、パートナーやサプライヤーとの協業もデジタル化していくことが重要になります」(浅利氏)
データドリブン経営を実現するためのポイントは、非財務、財務、IBP(Integrated Business Planning)による三位一体の経営基盤の実現である。三位一体とは、「IBPによるプランニング・モニタリング」「一貫損益が遅滞なく把握・分析できる財務情報」「サステナビリティに対応できる拡張性の高い非財務情報」である。その基盤となるのが、アーキテクチャマネジメントの策定である。そのうえで、意思決定の自動化の推進という領域を拡大していくことが必要になる。
ライフサイクルで収益を予測する着想は決して新しいものではないが、一貫収益が遅滞なく把握・分析できる財務情報や、明細レベルで予算と実績の差異や原価を管理できている企業はまだ少ない。IBPによるプランニング・モニタリングにおいては、ライフサイクル、および拠点を横断して、楽観、悲観、通常の予測シナリオで収益を予測し、適切なタイミングで意思決定できるシステムの強化を図る。
財務情報をより深く掘り下げていくためには、マスカスタマイゼーションへの対応が必要になる。量産品を大量に並べれば売れる時代は終わっており、今後は売り切りを含め、特別な仕様やより一層顧客ニーズに即したものづくりが重要になる。このときコンフィギュレーションの一番下の階層で財務情報が把握できていることが必要。製品の一貫収益、特性別一貫収益の把握に関しても、強化していくべきポイントである。
非財務情報に関しては、人材資本投資が重要になる。上場企業473社、機関投資家105社に実施されたある調査では、ものに対する投資よりも、将来の成長に向けた投資のほうが重要と報告されている。例えば、人材投資に関しては、72%の機関投資家が重視していると回答しており、2021年の58%から大きく向上している。一方、上場企業では38%にとどまり、設備投資が54%で1位、デジタル化が48%で2位、研究開発投資が39%で3位である。
浅利氏は、「象徴的なのが、企業が重視する1位の設備投資は、機関投資家は20%しか重視していないことです。機関投資家は、ものではなく、人をいかに資本として生かしていくかが重視される時代になっていると見ています。実際に2023年3月期の決算から、人的資本、多様性に関する開示が求められており、有価証券報告書で何を開示するかではなく、実際にどのように人材投資をしていくかが戦略そのものになっています」と話す。
変革を支えていく仕組みとしては、CoE(センターオブエクセレンス)の構築が重要になる。CoEは、組織を横断するスキル、ノウハウやデータ活用の仕組みに変革するための考え方である。階層型の保守的な組織ではなく、何をしてもよい自由な組織でもない、ガバナンスと情報共有のスイートスポット的な組織を目指すことが必要になる。この変革の経験を、次の世代に継承していくこために、組織横断の体制を確立することも必要になる。
講演最後の提言として浅利氏は、「基幹系システムのクラウド化が進展していますが、当面はクラウド、オンプレミス、レガシーなどが混在する時代が続きます。一方、部分最適のサイロ化の課題も継続しています。アーキテクチャが混在する時代だからこそ、ブレないアーキテクチャマネジメントを強化すべきで、部分最適のユーザーフレンドリーと決別すべきです。不確実性の時代においては、非財務、財務、IBPによる三位一体の経営基盤で質の高いデータ供給の仕組みを確立し、データドリブン経営を推進すべきで、次世代の人材にノウハウを継承する受け皿としても体制強化を図るべきです」と話している。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授