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» 2021年10月26日 07時06分 公開

「イノ推五輪の書」は単なるお題目ではなく、DX組織に対する行動判断基準の明示――ANA イノベーション推進部 野村泰一部長ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

コロナ禍の影響を大きく受けているが、変革のチャレンジを続け、いくつもの成果をあげつつある。ANAのDXへの取り組みと、新しいテクノロジー活用を生み出す環境作りとは。

[山下竜大,ITmedia]

 アイティメディアが主催するライブ配信セミナー「ITmedia DX Summit vol.9 逆境を克服するDX 逆転突破の技術」Day5の特別リレー講演に、全日本空輸(ANA)イノベーション推進部 部長 兼デジタルデザインラボ エバンジェリストの野村泰一氏が登場。「ANAにおけるDX 〜顧客接点で期待を越える体験を〜」をテーマに講演した。

少しずつ形になり始めたコロナ禍以前からの取り組み

ANA イノベーション推進部 部長 兼デジタルデザインラボ エバンジェリスト 野村泰一氏

 「コロナ禍により、航空業界は大きな打撃を受けていますが、逆にいえば従来のビジネスモデルを変革するチャンスだと捉えています。またこれまでの企業の在り方、仕事の仕方がこれでいいのかを考える機会でもあります。よく“ゼロベースで発想して”とか、“組織横断的に”とかいわれますが、それほど簡単ではありません。ただ、コロナ禍以前より取り組んでいることが、少しずつ形になり始めています」(野村氏)。

 取り組んだのは、システムアーキテクチャ、クラウドを活用した内製的デザイン、人×テクノロジーの3つ。

 システムアーキテクチャは、具体的には、まず2017年に散在していた情報を連携し、抜き出しやすくする環境、CX(Customer Experience)基盤を構築。続いて2019年に、各種顧客データを1つの仕組みに集約し、全社共通でデータ分析ができる分析基盤を構築。さらに2020年には、お客さまの行動データを分析し、施策を練るための仕組みであるストリーミングエンジンを構築。「分析基盤→CX基盤→ストリーミングエンジン」というサイクルでカスタマージャーニーに沿って情報を活用しながら、お客さまが求めている新たなサービスを追求しています。

IT部門のアクションが次のデザインになるのがDXの面白さ

 クラウドを活用した内製的デザインのポイントは、情報登録の早期化、お客さま対応チャネルの拡大、システムコストの削減である。「コロナ禍以前の数字ですが、機内などの忘れ物件数は年間8万件以上。空港単位に忘れ物が管理されており、更に空港事務所に忘れ物が届くまでに時間がかかるため、お客さまが空港に電話しても、すぐに確認できませんでした。そこでクラウドを使い、遺失物の情報を一元管理する仕組みを内製的に構築しました」(野村氏)。

 これにより、全ての空港から情報を参照し対応することができ、またお客さまはフォームから24時間いつでも問い合わせが可能になりました。野村氏は、「これで終わりではないのがDXの面白いところ。これまで空港単位に閉ざされていたデータをクラウドに移行することで、どのようなケースで忘れ物をするのかをAIチームが分析し、相関関係を見つけ、顧客サービス向上に生かすことにもチャレンジしていきます」と話す。

 人×テクノロジーでは、ヒアラブルデバイスを空港スタッフに展開。以前は無線機を使っていたが、聞き逃すと聞き直しにくい、ハンズフリーではないので接客が困難、柔軟にグループを組みにくいなどの課題があった。IT部門が積極的にデザインに関わることで、クラウドにつながるヒアラブルデバイスを導入し、過去のトークの聞き直し、ハンズフリー、便単位のグルーピングなどが空港スタッフの利便性を大幅に向上することができ、高く評価された。

 「さらに、クラウド上の音声データを活用することで、テキスト変換をして、テキストマイニングをすることで、会話を可視化することもできます。将来的にはチャットbotと連携し、必要な情報を効率的に取得することもできます。IT部門のアクションが、次のデザインのスタートになることがDXの面白さです。また無線機よりも安価に購入できるので、コスト削減にもつながっています」(野村氏)

DXを生み出すために大切にしている4つの要素

 「DXを生み出すためには、単なるシステム導入ではなく、人や土壌が大切です。DXを生み出すために大切にしているのは、マインドセット、内製力、新たなコミュニケーション、人材の4つの要素です」(野村氏)。

 IT部門は、言われたことをきっちりと、納期も、コストも含めて納品するだけでなく、システム開発の終了が、何かの始まりとなるようなマインドセットが必要になる。

 また内製力は、費用対効果的に実現が難しいという心のハードルを下げ、自分たちでできるのであればやってみようというマインドが生まれる。更に内製力がつくと、自分たちで何ができるか、これならできる、こうすればどうかといったコミュニケーションが生まれる。IT部門内だけのコミュニケーションではなく、ほかの部門とのコミュニケーションにより、新たな人材の育成にもつながっていく。

 「2017年に現職に就いて、最初に“イノ推五輪の書”を提示しました。IT部門は責任の重いセクションなので、失敗をしないように手順を守り、チェックポイントを大切にして、期限をしっかりと守るという意識があります。しかし、それだけではプラスアルファの価値をデザインするマインドが育ちません。そこで宮本武蔵の五輪の書にならい、イノ推五輪の書を作っています」(野村氏)。

 イノ推五輪の書は、単なる題目ではなく、DX組織に対しての行動判断基準の明示しており、さらに前年のナレッジをベースに毎年更新している。

  • イノ推五輪の書

1、イノベーションを起こしやすい環境を自ら作ろう。

2、失敗を恐れず、行動したことを誇りに感じよう。

3、熱い思いを持ち続けよう。

4、きれいな花を咲かせるための土壌に着目しよう。

5、互いにリスペクトし、チームで成果を分かち合おう。

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