ニュース
» 2022年01月25日 07時08分 公開

両利きの経営でDXの推進を――早稲田大学 ビジネススクール 根来龍之教授ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

デジタル化により、既存企業はビジネスモデルの変化を必要としている。この変化を成功させるためには、組織文化や意思決定スピードなどを変える必要がある。しかし、多くの既存企業は、過去に縛られ、そう簡単に変革できない。どうすればいいのか。

[山下竜大,ITmedia]

 アイティメディアが主催するライブ配信セミナー「ITmedia DX Summit vol.10 デジタルで世界はもっと良く変えられる」のDay1の基調講演には、早稲田大学 ビジネススクールの根来龍之教授が登場。「DXと両利きの経営」をテーマに、デジタルトランスフォーメーション(DX)の考え方と課題、その克服方法などを講演した。

製品やサービスのデジタル化は3段階で考える

早稲田大学 ビジネススクール 根来龍之教授

 DXには、いろいろな考え方があるが、私は、デジタル技術を使って、顧客への価値の提供を変革し、必要であればビジネスモデル全体を変革する取り組みと考えている。そうすると、企業が事業活動を通じてパートナーとともに製品やサービスを作り、顧客に提供し、顧客は製品やサービスを使って活動するという単純なモデルで、製品やサービスのデジタル化を考えることができる。

 2000年ごろから、すでに普及しているコンビニのマルチメディアステーションは、大変便利だ。チケットの購入、受け取りや受験料の支払いなど、幅広い分野で使われている。しかしこれは、顧客自身がコンビニに行かなければ利用できない。便利になったし、流通コストは下がったが、顧客の活動がデジタル化したとまではいえない。しかし無人コンビニは、顧客の活動を巻き込んだ変革となっている。

 例えばAmazon Goは、スマートフォンにアプリを入れていることで、消費者の活動の一部である購買活動と、企業側の活動の最後の部分であるデリバリーが一体となりデジタル化されている。これにより、購買体験のデジタル化が進んだと考えることができる。このような、製品やサービスのデジタル化は第1段階である。しかし、顧客の活動のデジタル化は、購買活動だけにとどまるものではない。

 例えばUberは、乗車場所を設定し、車を選び、価格の見込みをチェックして、乗車し、価格を確認、スマートフォンで支払い、ドライバーを評価するという一連の活動の全てがアプリ上で行われている。移動そのものは物理的だが、顧客の活動がアプリというデジタル環境に包まれている。購買活動だけでなく、顧客の消費活動そのものが、デジタル環境の中で行われている。これが、デジタル化の第2段階だ。

 第2段階はニュースやエンタメなどもその典型だが、若い人たちは、ながらスマホが前提であり、スマホ環境の中で生きている。こうした人たちに、ニュースやエンタメを届けるためには、彼らの消費活動がデジタル環境の中で行われていることを前提に、商品やサービスを提供しなければ受け入れられない。新聞は紙の方が読みやすいなどど言っている場合ではない。

 第3段階は、Uberに支払った情報を、SAP Concerのような会社の経費精算プラットフォームに直接つなげることができるサービスを例としてイメージしてほしい。SAP Concerとタクシーアプリは別の会社のサービスだが、プラットフォームとして、多くの会社のサービスとつながることで、顧客(会社)の経費精算プロセスのデジタル化を実現している。タクシーだけでなく、ホテルや航空券などが、全てデジタル化されることで、顧客の経費精算のデジタル化が有効になる。タクシー会社から見ると、自社だけがデジタル化を進めるのではなく、顧客が利用するプラットフォームとつなぐことで、初めて顧客を支援することができる。

 コマツが2003年に発表したKOMTRAXというサービスは、コマツの建機の情報を遠隔で確認するためのシステムで、これは第1段階である。第2段階として、顧客が現場の進行状況をデジタルで管理したいというニーズがあり、ICT建機という自動運転を前提としたシステムを提供。第3段階として、工事現場全体の見える化を目的に、LANDLOGと呼ばれるIoTプラットフォームビジネスに参入している。

 さらに2020年末に発売されたスマートコンストラクション・レトロフィットキットは、他社の建機に後づけで搭載することができるデバイスをサブスクで提供する。これにより、他社の建機を利用している会社も(完全ではないが)ICT施工ができるようになる。競争相手を助けることにもなるが、顧客の活動全体をサポートするためには、こうした活動が必要となる。

デジタル化のスピードは急に速くなることも

 デジタル化が急務だと考えている企業は多いが、方向性は分かっても、その範囲とスピーはなかなか読み切れない。例えば電子書籍は、2003年に日本で現在の電子書籍用端末とほぼ同じ技術のものが発売されたがうまくいかなかった。その後もソニーの製品が米国で売られていたが、それを原型としたと思われる製品が2007年のAmazon Kindleである。Kindleが成功したのは、大量のコンテンツを電子化して供給した(できた)ことが最大の要因だろう。

 さらに雑誌のデジタル化による読み放題も始まり、いまや書籍や雑誌のデジタル化は着々と進んでいる。しかし問題は、このスピードが今後どうなるかである。電子コミックの割合は確実に高くなっているが、書籍や雑誌はまだ紙の割合が高い。しかし、技術革新が進んでデジタル化のスピードは急に速くなることもある。歴史を振り返ると、カメラのデジタル化は10年かからなかった。

 既存企業は守るものがあるので、一般的な傾向としてデジタル化のスピードをゆっくりと見ているため、デジタル化への対応が遅れがちである。その範囲とスピーは産業によって異なるし、予想は難しいが、デジタル化はあらゆる産業全体のトレンドである。言いたいのは、既存のビジネスを守ろうとしても、やがて守り切れなくなるということである。基本的には、早めに変革を始める方がよい。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆