お客さまの変化に対応し、新たな価値を創造する“Life Innovation”に挑戦する三井農林ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

日本初の国産ブランド紅茶を生み出し、“日東紅茶”で知られる三井農林は、多様化する消費者の価値観にいかに対応し、新商品を開発しているのか。三井農林のDXの取り組みについて紹介する。

» 2022年12月20日 07時08分 公開
[山下竜大ITmedia]

 アイティメディアが主催するライブ配信セミナー“ITmedia DX Summit vol.14 『本当に成果が出る』DXの進め方 〜もうデジタイゼーションだけで終わらない〜”が開催された。Day1の基調講演には、三井農林 代表取締役社長の佐伯光則氏が登場。“日東紅茶における、DXを活用した顧客起点の価値づくり”をテーマに、同社のDXの取り組みについて事例を交えて紹介した。

ニューノーマル戦略を策定し、さまざまなDXプランを実施

三井農林 代表取締役社長 佐伯光則氏

 三井農林は1909年に農林事業製茶業を目的とした旧三井農林を起源とし、その後長年に亘りお茶製品を提供する事業を継続。 現在は、家庭用、業務用、飲料原料用の大きく3つの領域で、紅茶や緑茶を中心とした飲料、および飲料原料の製造・販売を事業として展開。家庭用事業では、“日東紅茶”ブランドで、ティーバッグ、リーフティー、パウダー飲料、リキッド飲料を、スーパーやコンビニなどの小売業を通じて販売。業務用領域では、ファミレスなどの外食チェーン、カフェ、ホテル、娯楽施設などに、ティーバッグ、リーフティー、カップ自販機やドリンクディスペンサー向け製品を、飲料メーカー向けでは、ペットボトルの紅茶、緑茶、麦茶などの原料を提供している。

 「昨今のコロナ禍による経営インパクトは、家庭用に関しては、当初は巣ごもり需要により売上が拡大しましたが、外食チェーンやカラオケ店、居酒屋などの業務用は、営業時間の短縮や外食機会の減少、席数の間引きなどにより消費量が大幅に減少。同様に飲料メーカー向け原料販売も、外出自粛やイベント開催中止、在宅勤務の増加などにより、ペットボトル需要が減り原料販売量も減少しました。そこで2020年11月に、ニューノーマル戦略を策定し、日東紅茶ブランドを軸としたさまざまなビジネス変革(DX)プランを実施しています」(佐伯氏)

 経済産業省では、DXを“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”と定義している。DXは、アナログなデータや作業をデジタル化する“デジタイゼーション”、業務フロー/プロセスをデジタル化する“デジタライゼーション”、ビジネスモデルを変革する“狭義のDX”で構成される。現在、DXが必要とされる背景には、ビジネス環境の変化、デジタル化の加速と消費行動の変化、2025年の崖と呼ばれる問題などがあり、環境変化の中で競争優位性を保つために企業が積極的にDXへ取り組むことが求められている。

デジタルテクノロジーの活用で、お客さまの変化・多様化に応える

 食品業界だけに限らないが、現在多くの企業が直面している最大の事業課題は“お客さまの価値観が多様化していること”である。コロナ禍による消費行動の変化の加速、生活環境やライフスタイルも大きく変化し、価値観も多様化してきている。この傾向は、世代ごとでも大きく異なっている。例えば、30代を中心とするミレニアル世代では、消費行動は“モノ消費”より“コト消費”で、考え方は“ワークライフバランス”の充実を重視する傾向にある。しかし10代、20代前半のZ世代の消費行動は、“倫理的消費”や“所有にこだわらない”といった特徴がある。

 「作れば売れる時代には、大量生産された商品をマスマーケットに向けて販売することが成り立ってきましたが、市場が成熟し、消費者ニーズが多様化し、個人が自分自身のライフスタイルを追求する環境下では、多様化するお客さま一人一人の期待にどう向きあっていくか、いかにスピード感を持って対応できるかが、企業の価値を左右します。多様化する価値観に迅速かつ柔軟に対応するためには、顧客志向、顧客起点の基本に立ち返り、これを事業運用モデルやプロセスに落とし込み、社員の思考や行動までも浸透させる必要があると考えました」(佐伯氏)

 三井農林が策定したニューノーマル戦略では、 “顧客起点の価値創出、プロダクトアウトからデマンドプルへ”を大目標として、これまでの自社起点での技術やカルチャーを軸にした変化への対応から、完全に顧客起点で市場の変化に対して自分たちの在り方を変えていくという方向へ方針を定め、データドリブンで実行していく意識転換を推進している。具体的には、顧客接点の確立、顧客理解の取組み、商品開発へのデジタル活用の3つの取組みを加速。取組みを推進するツールとして、デジタルテクノロジーを積極的に活用していくという。

顧客起点の価値創出に向けた三井農林の3つの取組み

 顧客接点の確立では、卸売業者に商品をおさめ、卸からスーパーなどの小売事業者に商品が流れ、スーパーではじめて顧客に商品が渡るこれまでの商流だけでなく、自社のオンラインショップを開設し、顧客と直接つながる仕組みを構築。計画から半年あまりで、日東紅茶の公式オンラインショップ、および高質商品を取り扱う体験型ECサイトの“nittoh.1909”を立ち上げ、商品販売だけでなく、体験イベント、コラボ企画の実施など、さまざまな取り組みを開始した。これにより、これまでなかった顧客との直接接点を確立し、これまで届きにくかった顧客の声を得る仕組みを構築した。

 また日本国内では、日東紅茶の公式Twitterと公式Instagram、およびnittoh.1909の公式Instagramの運用を開始。Twitterは、2020年5月の開設以来、毎日投稿を1日も欠かさずに実施し、フォロワーも5万人目前まで増えている。さらに正規輸出を開始した中国でも、SNS、EC旗艦店あわせてフォロワー数は約13万人にのぼり、顧客への情報発信を強化している。

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