お客さまの変化に対応し、新たな価値を創造する“Life Innovation”に挑戦する三井農林ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

» 2022年12月20日 07時08分 公開
[山下竜大ITmedia]
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 「情報発信と拡散を目的とするTwitterに対し、ロイヤリティー向上と興味の深掘りを目的としたInstagramは、当社の商品を用いたレシピ投稿や飲用シーンの提案を中心に着実にエンゲージメントの向上を図っています」(佐伯氏)

 顧客理解の取組みの事例では、“ファンミーティング”がある。新商品を販売する前に、nittoh.1909オンラインショップのロイヤルユーザーに試作品を試飲してもらい、その声を反映して商品化するプロセスを確立。例えば、徳島県産ゆずを配合した和紅茶のティーバッグ“Botanytea”やチョコレートとのペアリングを楽しむアソート商品“The Tea for Chocolate”の商品企画で、ファンミーティングを実施した。柑橘を使用した試作品を複数作り、試飲してもらった意見を総合評価した結果、徳島県産ゆずで商品化が決まった。The Tea for Chocolateも同様だ。

 アンケートを軸にした取組みの事例では、“ミルクティー向けの茶葉が欲しい”というアンケートから商品化を検討。商品化の前段階で試飲会も実施し、“The Tea for Milktea”の発売が決まった。2021年に発売した“ミルクとけだすティーバッグ”は、ティーバッグに茶葉とミルクパウダーが入った商品で、発売以来Twitterで話題になり、報道番組にも取り上げられた。“大容量品が欲しい”という声をもとに大容量品の商品化を検討、アンケートにて商品についての要望を収集し詳細を決定した。また日東紅茶のブランディングにおいてもファンの意見を反映する取組みを実施。2022年8月に、日東紅茶の新たなブランドエッセンス『TEAの“もっと”を創り出そう。』を掲げているが、このブランドエッセンスの選考に際してもアンケートで意見を収集している。

 さらにリアル店頭企画“With TEA事業”、SNSコミュニケーション、キャンペーンなどを連動させたリアル×オンラインの活動を強化している。例えば2022年春には、“至福のシャインマスカット”“至福のさくらんぼ”の発売を記念したプレゼントキャンペーン“至福の日キャンペーン”を実施。スーパー店頭で大型陳列を行い、Twitterで実施店舗の紹介を投稿するリアル×オンラインによる露出拡大を実施した。

 「リアル×オンラインを成功させるためには他部署と横断的にコラボレーションできる組織でなければならないと感じています」(佐伯氏)

 商品開発へのデジタル活用としては、AIを駆使している。日本国内のSNSで発信されたワードを集計するAIツールを活用して、話題量の推移や、今後のトレンド予測、年齢、性別、居住地、家族構成、職業などの人口統計学的なデータを解析し、可視化している。例えば、“はちみつ紅茶”というワードが、SNSでどれくらい発信されているかをAIで解析し、“はちみつ紅茶ティーバッグ”を市場投入した。また最終的には人の判断だが、文字のフォントや文字サイズ、色、イメージの配置など、パッケージデザインの多くの部分にAIを活用し、結果としてヒット商品が出やすい環境を実現している。

DXの目的は多様化する価値観に迅速かつ柔軟に対応すること

 「弊社のDXへの取り組みは、DXそれ自体が目的ではなく、あくまでも手段の1つと捉えています。目的は、お客さまのニーズの変化や多様化する価値観に迅速かつ柔軟に対応することです。それを実現するための有効なアプローチがデジタルテクノロジーという位置付けです。まずは、どのように価値を創出していくか、持続的に事業を成長させていくかという観点から、課題を洗い出し、その課題解決の手段としてDXが有効か否かという思考プロセスです。裏を返して言えば、DXなしで付加価値創出が持続的に可能であれば取り組む必要はないと思っています」(佐伯氏)

 三井農林では、中長期的な価値創出を目指し、ファンベースの考え方を中心に置いている。顧客の上位20%のファンが80%の売上を支えているというのが“パレートの法則”だが、その中でもより質の高いファンが30〜40%の売上を支えている。ファンの好意を積み重ねていくためには、ファンとの相互コミュニケーションを通じて、共感、愛着、信頼を地道に強くすることが重要。テクニックやマニュアルはなく、一人一人を大切にすることでコミュニティを強くし、自然な形でクチコミが広がることで、日東紅茶の仲間を増やし、ファンの意見を反映して商品をよりよくしていくのが理想のイメージという。

 「デジタルの取組みを手探りで加速してきましたが、DXの推進で大切なことは、(1)経営戦略、経営トップのコミットメント、(2)仮説検証を繰り返し、課題を達成するプロセスの確立、(3)顧客起点の変革(顧客行動・データの可視化)、(4)組織横断での取組み、(5)DXを推進できるITビジネス人材育成の5つに整理されます。今後の喫緊の課題は、仮説検証を繰り返し、課題を達成するプロセスを確立すること。今後も、お客さまの変化に対応し、お客さまとともに新たな価値創造する“Life Innovation”に挑戦し続けていきたいと考えています」(佐伯氏)

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