2022年度にデジタル戦略を策定し、推進するJFR。スタッフの意識を変え、従来の売り方を変えるためにはデジタルテクノロジーやデータ活用が必要と考え、JFRならではの進め方に取り組んでいる。
アイティメディアが主催するライブ配信セミナー「ITmedia DX Summit vol.16 デジタル技術とデータ活用で顧客との関係をより良いものに」が開催された。基調講演には、J.フロントリテイリング(JFR)グループデジタル統括部 チーフ・デジタル・デザイナーである野村泰一氏が登場。「JFRのデジタル戦略とその進め方」をテーマに講演した。
JFRは、大丸、松坂屋、パルコなど、リテール系企業グループの共同持株会社である。大丸、松坂屋は、江戸時代から続く歴史のある企業で、これまでに培った市場の信頼のもとに現在もビジネスを展開している。そのため百貨店は古いビジネスモデルというイメージを持たれることもある。しかし百貨店のビジネスモデルは、江戸時代から現在まで、時代に応じた変革を続けている。
例えば、D2Cブランドのショールーミングスペース「明日見世(asumise)」や洋服のサブスク「AnotherADdress(アナザーアドレス)」、メタバース上のニューヨークに出店した仮想店舗「バーチャル大丸・松坂屋」、3次元のクリエイティブをスマートフォンやAR対応グラスでその場に存在するように展示するバーチャルショーケース「SHIBUYA XR SHOW CASE」などを展開している。
その背景には「先義後利」という社是にある。「先に義を成すことで、利益が後からついてくる」という考えである。野村氏は、「縁あって2022年4月にJFRに入社しましたが、縁を感じた1つにこの先義後利という社是がありました。実家が商売をしていたのですが、祖母から同じようなことを体験させてもらったことを思い出し、ビジネスだけではなく、人財育成においてもベースとなる考え方だと感じました」と話す。
現在、JFRのDX推進のベースにあるのは「脱百貨店」である。野村氏は、「店舗を構えてプロモーションをしながらお客さまをお待ちするという伝統的な百貨店スタイルを継承するだけではなく、常に変化していくことが必要です。そこで現在、デジタル戦略を推進するための骨子をとりまとめ、さまざまな取り組みをスタートしています。これにより変革の意識が社何にも芽生え始めています」と話す。
デジタル戦略の骨子は、以下の3つの柱で構成されている。
(1)カスタマーデータドリブン経営の実践
顧客の情報をホールディングス全体でとらえ、店舗だけではとらえきれなかった価値をリードしながら顧客との関係性を築いていく。
(2)デジタルテクノロジーを活用した新たなビジネスモデルの構築
デジタルテクノロジーを活用することで、有形、無形の資産を生かした新たなビジネスモデルを構築する。
(3)上記のアクションを支えるデジタル人財の育成
(1)、(2)に継続的に取り組むためのデジタル人財を育成する。
カスタマーデータドリブン経営の実践では、大丸、松坂屋、パルコというブランドごとに顧客に対してサービスを提供するだけでなく、ホールディングスという立場を生かし、グループ全体のデータを横断的に活用することで、各店舗では分からなかった傾向を把握することを可能にする。
「例えば、隣接する百貨店とパルコのお客さまのデータを分析した結果、一方のIDを持っているお客さまより、両方のIDを持っているお客さまの方が売上も、会員の継続率も高いということがわ分かりました。各担当者の経験値は重要ですが、データにより気付かされることもあります」(野村氏)
これまでのデータの使い方は、各店舗が手元にある売上データや顧客データなど、過去のPOSデータを分析することで、業務上の課題を見つけたり、より効率的に業務を改善したりというもの。今後は手元にないデータも統合し、未来を予測したり、新しい価値を創造したりできるデータ活用が必要になる。
こうした取り組みにより、将来的にデジタルツインの世界を実現することも期待できるし、新しい視点が出てくることで、意思決定の形が変わり、企業のスピードも変化する。データを統合し、新しい価値が生まれるプロセスを内製化することで、新たな価値を得やすくすることができる。
データを活用するためにはデザインも必要になる。デザインのポイントは、大きく2つ。まずグループ全体の強みを生かすことで、例えば百貨店とパルコのデータを合わせた分析が可能になる。また世代的な変化に応じてグループ全体で対応することで、顧客のライフタイムジャーニーをサポートすることができる。
野村氏は、「JFRの社員には個別の店舗や企業単位で頑張るという癖がついています。そこで少し違った視点を提供したいと考え、百貨店とパルコのデータを掛け合わせることで何かが起きるし、お客さまの人生設計にあわせてグループの接点が変化してもよいのではないかと感じています」と話す。
そして、多くの企業では、最初は小さなビジネスモデルから事業をスタートするが、だんだんと大きくなるにつれ仕組みも大きくなる。ビルを作った後に内部の設計を変えるのが困難なように、メインフレームによる基幹システムも初期の段階で対象外になった機能は、業務改善の恩恵を得にくい状況になる。そのためカバーされない業務がフロー全体の中でボトルネックになってしまう。
「ボトルネックが発生した状態では、利用者のモチベーションにかかわります。そこでデザインをする場合、業務全体のボトルネックは何かという視点(業務に関わるデータの流れを止めない視点)が大切です。これまでに話したとおり、デジタル変革では、データ活用とデザイン力が重要になりますが、では“誰がやるか”という問題も残っています」(野村氏)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授