データ活用とデザイン力で新たな価値を創出する「未来へのシナリオ図」――J.フロントリテイリング 野村泰一氏ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

» 2023年06月21日 07時00分 公開
[山下竜大ITmedia]
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スキルだけでなく、マインドとナレッジを身に付けた人財を育成

 世界的にデジタル人材が不足している現在、もし予算が確保できても外部からデジタル人財を採用することは簡単ではない。よいフィールドを作るためには人財が必要だが、よいフィールドでなければ人財は確保できないという皮肉な一面もある。そこで注目されているのが「リスキリング」である。

 JFRでは、スキルだけでなく、マインドとナレッジを身に付けた「データアナリスト」、および「デジタルデザイナー」の2種類のコア人財を育成している。データアナリストはデータ活用で新しい価値を生み出す人財であり、デジタルデザイナーはビジネスとテクノロジーのナレッジを持ち、デザインを形にできる人財である。

 最初は部門の課題解決からだが、成長していくと部門横断的なデザインも可能になる。この2種類の人財を2024年には100人、2030年には1000人育成する計画だ。人財を1カ所に集約するセンターオブエクセレンス(CoE)的な考え方もあるが、より多くの現場担当者を支援するためにコア人財を現場に配置している。

 デジタル人財の育成では、コア人財の育成だけでなく、経営者を含む全社的な盛り上がりも必要であり、コア人財、社員全般、経営層をデジタル教育の対象とすることが必要。コア人財の育成は2022年12月よりスタート、社員全員の底上げは2022年秋からスタートしてすでに700人以上が受講、経営層向けは2023年6月よりスタートしている。

 野村氏は、「デジタル人財の育成は、会社の風土や文化に関係性が深いと思っています。“優れたデジタル化”の実現のためには“良いデザイン”が必要であり、“良いデザイン”のためには“良い土壌”が必要です。DXを進めるためには、それを育む土壌とプロセスが必要であり、それが無ければせっかくの木が枯れてしまうことになります」(野村氏)

 そこでJFRでは、人財育成のプログラムの多くも内製化している。デジタル人財教育を内製的に取り組むことで、取り上げる事例やデータが身近なテーマとなり、社内の知の伝承を体現することができ、少ないコストで実践が可能。単なるスキル教育に終わらない、より実践的な人財育成に取り組むことができ、そのプログラムを社内にオープンに公開し、広めることが期待できる。

 野村氏は、「横断的なプラットフォームを導入しようとか、サイエンティスト育成のためのスキル教育をしようなどといったアクションがとても大切になります。2022年に作成された“未来へのシナリオ図”は、JFRの部内はもちろん、社内の人財教育の場でも共有されているものです。JFRは何のために存在するのか、成長のためにどのような支援をするのかを明示化したものです」と話す。

JFRの存在意義や成長のために必要な支援を明示化した

 具体的なアクション事例の1つにアバターロボットによる概念実証(PoC)がある。百貨店は、顧客にお店に来てもらうのが基本だが、テクノロジーを活用することで、顧客は好きな場所からアバターロボットにアクセスし、遠隔で操作をすることで、お店に来てもらうことなく買い物を体験できる仕組みを提供している。

店舗におけるアバターロボットの活用アイデア

 またビジネスデザインの1つの可能性としてメタバース事業を推進。リアルメタバース事業、デジタルメタバース事業、デジタルコンテンツ販売事業の3つの可能性を追求し、実装に向けた検討を進めている。

 野村氏は、「JFRに入社して以降、デジタル周りの業務を行いながら企業の変革に努めています。まだ1年ですが、手応えを感じています。百貨店が持っている危機感を前向きなエネルギーに変えるために、データを活用するプロセスや環境を作り、それを使う人を育て、交錯する場を演出しています。変革は受け身だとつらいですが、主体的に動いてみることで、これまで見えなかった景色や風を感じることができ、可能性を広げられているのではないかと考えています」と話し講演を終えた。

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