「業界初『銭湯直営ブルワリー』誕生」 湯上りにクラフトビール、新時代の幕開け

「銭湯文化を未来に残し、発展させたい」という2人の夢に下町の地元仲間がタッグを組んだ。新時代の銭湯が幕を開ける。

» 2023年12月25日 10時15分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 風呂上がりにグッと一杯。それが爽快なクラフトビールなら最高! 東京都墨田区で3軒の銭湯を経営する新保卓也さん(44)、朋子さん(45)夫妻は、そんな楽しみを提供している。番台でオリジナルビールを提供するなど画期的な運営で人気を集めてきたが、ついに業界初の銭湯直営ブルワリー(醸造所)を開設し、16日から提供が始まった。「銭湯文化を未来に残し、発展させたい」という2人の夢に下町の地元仲間がタッグを組んだ。新時代の銭湯が幕を開ける。

銭湯直営ブルワリーで乾杯!左から高橋理子さん、新保朋子・卓也夫妻、田中健太さん、林洋介さん=いずれも東京都墨田区(重松明子撮影)

番台にサーバー設置の黄金湯で盛況

 東京メトロ「押上駅」近く。軒下に彩り豊かな野菜が並ぶ小さな商店街の一角に、銀色のタンクが見えた。「ベイズ(BATHE)ヨツメブルワリー」だ。

 出来立てのヴァイツェンを口に含むと、小麦のまろやかさと果実のような甘いアロマがふくらみ、後味はスッキリ。風呂上がりには至福の味だ。「サウナで使うシラカバを副原料に加えて森の香りを演出。アルコール度数も3.7%と低めで、体にやさしく造っています」と卓也さん。3種を醸造。今は醸造所併設バーのみだが、年明けから四ツ目通り沿いに展開する「大黒湯」「黄金(こがね)湯」「さくら湯」で順次提供する。


 もともと卓也さんは大黒湯の次男で跡取りの意識はなく、自ら起業したリサイクルショップを経営していた。だが11年前、父親が病に倒れるなどで家業継続が困難になるなか「夫婦で銭湯を残そう」と決断した。

銭湯の番台にビールサーバーを設置している「黄金湯」。店主の新保朋子さん(左)と夫の卓也さん=東京都墨田区(重松明子撮影)

 露天風呂設置やオールナイト営業、銭湯画を生かした企業コラボなどで経営を軌道に乗せた5年前。今度は近所の黄金湯が老朽化と後継者不在で廃業する事態となり、朋子さんを店長に事業承継・再生に挑んだ。

 夫婦の人生をかけた億単位の投資。当時、「サ活」と呼ばれるサウナ活動が20、30代男性を中心に広がっており、古き良き銭湯風情を残しながら若者好みに全面改装した。番台にビールサーバーを設置して令和2年に再開業。クラウドファンディングも活用した船出だったが、訪日外国人を含む遠方からもファンを呼び、サウナに数時間待ちも出る人気スポットになった。さらにはホステル(簡易宿泊施設)も新設。収益は入浴8割に対してビールや宿泊が2割と新たな収入源を確立した。提供するクラフトビールは外注だったが、目標は自家醸造。近場で醸造所の出店地を探していたところ、「アトリエの隣の物件が出てるよ」。

 声をかけたのがアディダスやイケアとの協業などで世界的に活躍する芸術家、この商店街を制作拠点とする「ヒロコレッジ」の高橋理(ひろ)子さん(46)だった。卓也さんの幼なじみを介して友人になり、黄金湯のロゴやグッズをデザイン。今回もブランディングやロゴ、グラスを手掛け、ドイツではやっている小グラスで飲むスタイルも取り入れた。「ビール造りまでやるなんて、新保夫婦のセンスと推進力がすごすぎる」とたたえる、心強い“応援団長”だ。場所を確保し、銭湯従業員の田中健太さん(28)を醸造研修に送り出した。「ぜひやりたかった。サウナ好き、ビール好き、黄金湯好きで、2年前に常連客から転職した」という心意気あるつわものである。

 6台のタンクを横目にバーへと進む、気分を上げる店づくりは林洋介さん(47)のデザイン。「醸造風景を眺めつつ、気軽に立ち寄ってもらいたい」

 たまたま林さんが内装を手掛けた店を訪れた朋子さんが「同じ方に頼みたい」と熱望すると、高橋さんと親交があることがわかり、人の輪がつながった。


 もう1軒の地元銭湯も引き継いだ新保夫妻。「各店の競合はなく、近所に引っ越してくる銭湯好きも多い」と、地域活性化にも一役買っている。家風呂が当たり前の現代、国の統計によると銭湯はこの10年で1804軒減って令和4年度は3千軒。その一方、企業努力による個性的で面白い銭湯も目立ってきている。

 520円(東京都の入浴料)のワンダーランドに、どっぷりつかってみよう。(重松明子)

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