著書『マネジメント』などで知られ、国内外の多くの経営者やリーダー層に影響を与えてきた経営学者のピーター・ドラッカー。このドラッカーの理論で経営チームのコンサルティングを行う山下淳一郎氏に、ドラッカーの教えに基づいた部下に成果をあげさせるための方法を学ぶ。
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、トップマネジメント代表取締役の山下淳一郎氏が登場。ドラッカーの理論を活用するコンサルティングを提供している山下氏は、全3回にわたり『ドラッカーに学ぶ「部下に成果をあげさせる上司5つの実践」』と銘打った勉強会を行う予定となっている。第2回目の今回は「上司が果たすべき2つの責任」をテーマに講演を行った。
18世紀の産業革命以降、単純労働から知識労働へ、労働者に求められる仕事の内容が、大きく変わっている。単純労働者よりも知識労働者が増えた現在では、マネジメントの在り方も大きく変わり、上司と部下、それぞれに求められることが大きく変化しているのだ。
知識労働者の仕事は、ある程度自分で考えて働くことが要求される。何も考えずに決められたことをやればいいマニュアルワーカーとは違い、知識労働者にとっては自己決定感が必要なのだ。それにともない、現在の上司の仕事は、部下の仕事の方向付けをしたうえで「いかに部下を成果を上げる存在にするか」が重要になっている。
知識労働の生産性向上のために最初に行うことは、行うべき仕事の内容を明らかにし、その仕事に集中し、他のことはすべて、あるいは少なくとも可能な限り無くすことである。
そのためには知識労働者自身が、仕事が何であり、何でなければならないかを知らなければならない。
ピーター・ドラッカー
適切なマネジメントを行ううえで、上司が果たすべきことがいくつかある。その1つは、果たすべき仕事を部下本人に理解してもらうことだ。
仕事において、「例の企画、来週の金曜日までに考えておいて」といった曖昧な指示を出したことはないだろうか。それは上司としては、「A4ペラ一枚でいいので、ざっくりとした企画概要書を提示してほしい。それをたたき台としてブラッシュアップしていこう」という意図で投げた言葉だったにも関わらず、部下は「30ページくらいのボリュームの企画書を提出しなければならない」と考えて、時間と労力をかけて30ページの分厚い企画書を提出してくるかもしれない。本来、上司が部下に求めていた仕事は「頭を使って企画を考えること」だった。しかし、部下は「手を使って企画書を作ること」と誤解してしまうのだ。
「仕事でやるべきことを理解していないと、無駄な作業に時間を費やしてしまいます。それに対して上司は部下を叱責し、評価を下げていく。そんな上司に、部下も不満を持つ。上司が部下に対して果たすべき仕事を理解させていないと、いろんなところでボタンのかけ違いが起こります」(山下氏)
また、現在の知識労働者は、仕事の内容に応じて、必要な情報、仕事の方法は本人が決めるようになっていて、やるべきことが明確に決まっていないのだ。本来やるべき重要な仕事と、それ以外の本来の仕事ではない業務。さまざまな業務に囲まれ、部下は何に力を入れるべきかということが分からなくなることがある。
「現在の知識労働は、具体的な業務内容が決まっているようで決まっていない。だからこそ、上司は部下に、果たすべき仕事を分からせないといけません。仕事が分かっていなければ、部下は決して成果を上げることはできません。また、上司として、部下を“成果を上げる存在”に導いてあげることはできないのです」(山下氏)
「果たすべき仕事」が何か分かったら、次に「集中すべき仕事」を選択する必要がある。ある例を見ていこう。
ある病院では、看護師たちが忙しく常にイライラしており、患者にも冷たい態度をとっていたため、患者からは多くのクレームが寄せられていた。看護師のモチベーションも下がっており、多くの退職者が出ていた。さらに良くない噂が広がり、患者の数も減っていった。憂慮した経営陣が、看護師たちが行っていた業務をピックアップしてみたところ、本来の看護業務以外に、会計部門への提出書類の作成、保険会社に提出する書類作成、医療ミスの訴認防止の書類作成、電話対応、院内清掃、院内美化なども看護師の業務になっていたことが判明した。つまり、看護師でありながら、看護業務よりも他の業務に時間を割かれ、看護をする時間が割り当てられていなかったのだ。
本来、看護師が行うべき業務は「医師の指示に従うこと」と「患者の看護をすること」のみであるはずなのに、この病院ではそれ以外の業務が大量に看護師に割り当てられていた。そこで病院経営陣は、看護師資格が必要な業務と必要のない業務に振り分け、看護師は看護師資格が必要な業務のみに集中できるようにした。その結果、看護師は本来の看護業務に集中できるようになり、仕事を楽しみ、笑顔も増えていった。
ここで「集中すべき仕事」を選択した結果、これまでの半分の看護師でこれまでより多くの息者に対応できるようになり、息者はどんどん増えていったという。このように集中すべき業務を選択していくことで、生産性が向上していくのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授