デジタルアイデンティティこそがデジタル覇権の行方を左右する――東京デジタルアイディアーズ崎村夏彦氏ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

GAFAを成功に導いたデジタルアイデンティティとは? デジタルの世界で劣勢に立たされている日本が再び立ち上がるポイントとして、明治維新の歴史に学び、「デジタル変法」が必要だと呼びかけた。

» 2024年05月15日 07時01分 公開
[高橋睦美ITmedia]
東京デジタルアイディアーズ エグゼクティブ・パートナー 崎村夏彦氏

 Google、Apple、Facebook、Amazonという四大テック企業の頭文字を取った「GAFA」、あるいはそれにMicrosoftを加えた「GAFAM」という言葉がメディアを賑わせるようになって久しい。一体なぜ、たった数社の企業がこれほど注目を集めているのだろうか。

 OpenID Foundation理事長で、東京デジタルアイディアーズのエグゼクティブ・パートナーを務める崎村夏彦氏は、「GAFAを成功に導いたデジタルアイデンティティとは ── デジタルアイデンティティなくしてDXなし?  No ID, No DX」と題するセッションの中でその理由を解説し、デジタルアイデンティティの重要性を強調。その上で、デジタルの世界で劣勢に立たされている日本が再び立ち上がるポイントとして、明治維新の歴史に学び、「デジタル変法」が必要だと呼びかけた。

GAFAMがサイバー大陸の覇者になった理由は「アイデンティティ」にあり

 今やGAFAMは飛ぶ鳥落とす勢いだ。「インターネットはサイバー空間といわれますが、インターネットに依存した生活を送っているこの状況は、七つの大陸に続いて発見された新たなサイバー大陸、第八の大陸に移住したようなものです。この第八大陸の覇者がGAFAMです」(崎村氏)

 彼らはなぜ覇者になれたのだろうか。崎村氏は、「他の多くの企業は、インターネット上の便利なサービスを中核にしたアプローチを採用しています。これに対しGAFAMは、デジタルアイデンティティを中核にした“アイデンティティ中心アプローチ”を採用しており、この違いが決定的な差を生み出したのです」と述べ、その理由はデジタルアイデンティティにあるとした。

 デジタルアイデンティティ管理というと、日本では「ID管理」と略され、「ユーザーIDとパスワードによるユーザー認証を行うこと」に矮小(わいしょう)化されがちだ。だが実際には、より大きな意味合いを持つという。

 そもそも企業経営の視点では、顧客や従業員、工場のライン、在庫、販売店といったさまざまな資源(リソース)を識別し、効率的に運用し、付随するリスクを許容レベルに抑えることが求められた。以前はこうした資源管理を、紙の台帳や人の頭の中で行っていたが、1990年代半ばに始まった第四次産業革命により、インターネットに接続されたコンピュータで自動化するようになった。

 さまざまな経営資源の管理をコンピュータで自動化するには、これらのリソースを識別(Identify)し、デジタルの世界で扱えるようにする必要がある。逆に言えば「デジタルアイデンティティの管理なくして、第四次産業革命以降の経営は成り立たなくなってしまった。このことをいち早く理解したのがGAFAMであり、それゆえにサイバー大陸の覇者になれたのだ。

 なお、GAFAMと一括りにされがちだが、それぞれの事業内容は検索サービスだったり、スマートフォン向けOSとそれを取り巻くアプリのエコシステムを作り上げたり、あるいはSNS事業、EC事業を大規模に展開したりと全く異なっている。だが、世界中に大規模なユーザーを抱え、かつデジタルアイデンティティを中心に事業を運営していることが共通項となる。

属性の集合により、他のものと区別することが「アイデンティティ」の本質

 デジタル大陸の覇権を左右するデジタルアイデンティティだが、そもそもデジタルアイデンティティとは何だろうか。文字通り「デジタル」と「アイデンティティ」をつなげた言葉であり、ポイントは「アイデンティティ」の方にある。

 アイデンティティは、日本語ではあまり馴染みのない言葉ではあるが「自分自身をどう認識するか、他人からどう認識されるかといった事柄が、アイデンティティの中心にあります。そのためにはどうやって認識をするかが大切になります」と崎村氏は解説した。

 私たちは普段、「対象を属性の集合に分解して認識する」ことで認識を行っている。ここでいう属性とは、あるものが備える一部の性質を表すもので、その属性を必要なだけ集めていくと、「あるもの」を「他のもの」とは違うものとして確立できるようになる。この時、あるものを区別できる属性の集合のことを「識別子」(Identifier)と呼ぶ。

 崎村氏は一例としてパスポートを挙げた。パスポートとは、所持者が書かれている属性の集合を持った個人であることを証明するものであり、姓名や国籍、生年月日、性別といった「属性」が記載されている。これらの属性の集合が、その個人のアイデンティティというわけだ。

 そして、ある実体に関する属性情報の集合を、コンピュータ上で自動処理可能なデジタル形式で表現したものが、デジタルアイデンティティとなる。ここで言う実体とは人間だけとは限らない。組織や会社、コンピュータ上で稼働するプロセス、あるいは最初の例にあったさまざまな経営資源も全て含まれる概念であり、それぞれがアイデンティティを持つことになる。

 これまで、情報システムで管理されるデジタルアイデンティティは、アプリケーションごと、Webサービスごとに別々に存在してきた。だがGAFAMはそうではない。当初はGmailやYouTubeといったアプリケーションに個別にログインしていたが、今やその裏側でアイデンティティを管理し、どれか一つでログインすると全てのアプリケーションでログインされるよう、複数のアプリケーションにまたがり、アイデンティティを集中的に管理している。

 GAFAMはアイデンティティ管理フレームワークを構築し、そこで集中的にアイデンティティを管理しており、ここが、GAFAMと他の企業との端的な違いである。

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