近年、「ファンマーケティング」や「コミュニティマーケティング」という言葉を聞く機会が増えているが、「既存顧客に買わせるためのマーケティング活動」になっている場合は注意が必要だ。
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近年、「ファンマーケティング」や「コミュニティマーケティング」という言葉を聞く機会が増えています。既存顧客のロイヤルティや熱狂度を高め、より多くの商品やサービスを利用してもらう目的でコミュニティやファンマーケティングに取り組んでいる企業も少なくありません。
しかし、いわゆる「ファンマーケティング」が「既存顧客に買わせるためのマーケティング活動」になってしまっている場合は注意が必要です。既存顧客がより多く製品・サービスを利用することは悪いことではありません。むしろ歓迎されるべきです。ただ、ファンへのマーケティング活動が買わせるものになっているとすると、それはファンが望んでいることと乖離(かいり)している可能性があります。ファンの「好意度」と「購入量」は必ずしも一致しません。ファンにとってあくまで「購入量」は「好意度」が変容した結果の1つであり、購入量自体を企業側がコントロールすることは不可能です
購入前の顧客だけに体験を最適化するのではなく、購入後の顧客の体験を含めた最適化をすることです。それによって、「他よりは安いから」「帰り道の途中にお店があるから」「なんとなく」という理由で買う顧客から、「商品が魅力的だから」「中の人に好感を持てるから」「この企業を応援したいから」というファンになってもらうことで、「好意度」を変容させ、「購入量」に影響を与えることができるのです。
逆の視点に立つと、全ての顧客を対象にした際に、「購入」がどのような顧客によって支えられているかを把握しておくことが企業にとって重要です。それには、数々の製品・サービスのなかで、なぜそれを選んだのか顧客に直接聞いてみることをお勧めします。なぜなら継続的に買ってくれている顧客は一見優良顧客に見えますが、蓋を開けてみると、継続的に購入する顧客の大半が、習慣的な購買に支えられていて、特に感情を伴って購入していないという事実が明らかになることも少なくないからです。
継続的に買ってくれている顧客は、現時点ではとてもよい顧客といえるかもしれません。乱暴な言い方をすれば、何もしなくても、放っておいても買ってくれる顧客ともいえます。
しかし、何かしらの好意が伴わない購入は、他社の刺激に弱い顧客でもあります。例えば急に競合が顧客にとって今より便利な場所に店舗を出店した場合、セール時に大幅の値引きキャンペーンを実施した場合、お得なノベルティを特典にした販促を実施した場合……いずれも好意の伴っていない顧客は翌日から一気に競合へなだれ込んでしまう可能性もあるわけです。
もちろん店舗の立地、便利な EC のしくみなど、顧客が買いやすい環境をつくることは欠かせません。その一方で、顧客がただ「買いやすい」という理由で買ってくれている状況だとすると、それは薄氷の上に顧客の資産を築いていることになります。
そのような危うい顧客基盤の上で売上を獲得し続けるには、継続的に値引きやインセンティブに依存した施策に頼らざるを得ず、マーケティング予算を費用として投下し続けなければならない状況に陥ってしまうということも、大きなリスクといえるでしょう。
「購入」はあらゆるマーケティング活動の結果でしかありません。しかし、その結果がどのような過程によってもたらされたものなのかを明らかにし、自分たちにとって「よい売上」をつくることが、自らのサービスの価値がぶれることなく、良質な顧客基盤をつくることにつながります。
ファンの好意度を高めていくことはファンをつくるうえでは不可欠ですが、好意度を高め、購入量だけに注目することもまた、ファンへの取り組みが失速してしまう大きな要因です。ファンだけに向き合うことが、ファンへの取り組みを失速させます。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授