・要求のライフサイクルマネジメント
「要求をトレースする」こと(トレーサビリティ)は日本ではあまりなじみがないかもしれませんが重要です。例えば、食品のトレーサビリティとは生産者から消費者までの経路を明確にすることですね。それにより私たちは食材をどのような人が生産しているかを知ることができ、安心して食事を楽しめます。同じように、「要求のトレーサビリティ」はソリューションと大元のビジネスニーズをつなぎ、その関係を明確にすることでソリューションが大元のビジネスニーズを満足することを確実にします。ビジネスニーズにつながらない途中の要求を排除することも可能です。
「要求の優先順位付け」も重要ですね。プロジェクトの開始時点で優先順位の付け方をステークホルダーに合意してもらっておくことが大切です。例えば、要求がもたらすベネフィットや価値を基に優先順位決めるとか、顧客との契約上ペナルティ条項があるのでペナルティを重要視する。またリスクの高いプロジェクトなのでリスクの高い要求を優先的に実装する、などがありますね。事前の合意を基に優先順位を付けます。こうすることにより要件定義時に、声の大きい人の言い分が通ること(デシベル優先順位)を防ぐことができます。
要求の変更管理も、もはやツールなしでできるレベルではありませんね。ツールを使えば、ある要求の変更が別のどの要求に影響を及ぼすのか、グラフィックに示してくれます。
そして、全ての要求マネジメントの作業を要求管理ツール上で行います。ここが最も重要です。
残念ながら日本ではこのようなツールの普及が遅れていると言わざるを得ません。もはやエクセルで膨大な要求を管理する時代ではありません。
要求管理ツールの例です。
日本ではこのようなツールの導入が遅れているのが心配です。海外のカンファレンスに行くと、ツールベンダーのブースが華やかに展示されていて、毎年ツールの進歩には驚くばかりです。竹槍をいくら削っても、デジタル戦争に勝つことはできません。デジタル敗戦の一因と言ってもいいでしょう。早く良いツールを使いましょう。 ツールに関しては別の連載で詳細に解説しますのでお待ちください。
・ソリューション評価
ソリューションが実装されても価値が実現できるとは限りません。特に最近の変化の激しい、いわゆるVUCAの時代では、ソリューションが実装された時点では当初のビジネス目標が陳腐化して、意味がなくなっている可能性すらあります。顧客の嗜好が変化したり、競合会社が破壊的技術を生み出したりするなど外部環境は既に変わっている可能性がありますから、当初の目標そのものも見直すべきです、そのような環境においても価値を実現することが重要です。
BABOKではソリューションの実装時に価値の実現を妨げている要因を分析し、この時点での外部環境の変化に応じた目標の再調整を行う仕組みを持っています。そのようにして価値を実現するわけで、ビジネスアナリストがその責任を持ちます。
的(マト)に狙いを定めて鉄砲をうち、単純にどれだけ的の中心に当たるのかを競うのではありません。的そのものが動いているので、それを追尾しながら的に当てます。すなわち、単純な鉄砲ではなく、最新鋭の(追尾機能を備えた)ミサイルのようなものです。
BABOKを前編と後編の2部構成で解説しました。
ビジネスアナリシス(BABOK)がいかにビジネスとITを結びつけることができるか、分かりましたか。さらにデジタルトランスフォーメーションにも大きく貢献できる知識体系にもなっています。
CBAP、(株)KBマネジメント 代表取締役、前IIBA日本支部BABOK担当理事
28年間、YHP/HPにて、営業マネジャー、マーケティングマネジャー、SEマネジャー、SE教育マネジャーを歴任。グローバルシステムの導入でビジネスアナリシスの経験を積む。その後に独立し、KBマネジメント社を設立し現職。現在は、人材教育コンサルタント、研修インストラクターとして、IIBA認定ビジネスアナリシス教育プログラムの開発と提供を手掛ける。
2015年〜2022年(8年間)IIBA日本支部BABOK担当理事
「やさしくわかるBABOK」(秀和システム)(共著)。BABOKRガイドv3(日本語版)監修責任者。キンドル版「よくわかるビジネスアナリシス」(共著)BABOKガイドアジャイル拡張版v2(翻訳・出版)、ビジネスデータアナリティクス・ガイド(翻訳・出版)プロダクトオーナーシップ概論(翻訳・まもなく出版)、資格:CBAP(Certified Business Analysis Professional)(2011年)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授