博覧会建築の本質は「仮設性」にある。恒久利用を前提とする本建築とは異なり、期間を限って使用される建屋であるがゆえに、簡易な構造が採用され、また材料やデザインにも自由度が生じる。大阪・関西万博でも、新しい素材を用いたパビリオンが散見される。
博覧会建築の本質は「仮設性」にある。恒久利用を前提とする本建築とは異なり、期間を限って使用される建屋であるがゆえに、簡易な構造が採用され、また材料やデザインにも自由度が生じる。大阪・関西万博でも、新しい素材を用いたパビリオンが散見される。
ここでは廃棄物を利活用する試みに注目したい。優れた事例が、アラブ首長国連邦(UAE)館だろう。農業廃棄物として多量に出るナツメヤシの葉軸を高さ16メートルの柱に巻いて、内装材として転用している。館内に90本の柱が並ぶ光景は圧巻である。今回の万博で、デザイン面において、最も優れたパビリオンのひとつだと思う。
一方、ドイツ館の内装として使用されているマイセリウム(キノコの菌糸体)を用いたパネルも話題である。もみ殻やおがくず、段ボール、コーヒー豆、フルーツの皮など農業廃棄物や食品廃棄物を基質に用いて、ブロックやボードに加工されたオーガニックな素材である。
マイセリウムは断熱性能が高く、耐火性にも優れている。ポリスチレンなどと比べると、点火したときは熱や煙や二酸化炭素を出す割合も少ない。また取り壊して廃棄する際には、土に戻る。そのため理論的にはカーボンネガティブ、すなわち製造過程で排出される量よりも、多くの二酸化炭素を吸収できる素材であるとされているようだ。
構造体として使うには強度が不十分だが、コンクリートと同様にパネルやブロックに自由に成形することができる。建材として利用されたケースでは、2014年に「MoMA(ニューヨーク近代美術館)」の別館に、マイセリウムで用いたブロックを積み上げて製作されたタワーが先駆的であったと記憶する。自然と建築が融合する実験的なパビリオンとして、大いに話題となった。3カ月の会期が終了後、建材はすべて堆肥化され、地元のコミュニティーガーデンに提供されたという。
国内で開発されたマイセリウムのパネルも、万博会場内で見ることができる。パナソニックグループによる「大地エリア」にある「センサリードーム」の壁面に用いられている。
バイオマテリアルを活用する試みでは、竹中工務店が休憩所として出展した「森になる建築」も面白い。生分解可能な植物由来の樹脂を素材に用いて3Dプリンターで製作、表面には種子を入れた手すきの紙(種入り)を貼った小さなドームである。将来的に建物が不要になると建築は微生物に分解されて崩れ落ち、その表層から植物が芽生えるというコンセプトである。
木造のリングをはじめ、いかにパビリオンをリユース、リサイクルするかが万博のレガシーをめぐる議論の俎上(そじょう)にある。ただそれだけではなく、前提として廃棄物を利活用する発想や将来的に森にかえる建築といった提案も、大阪・関西万博の理念を継承する実践としてきちんと位置づけ、今後も発展させていきたいと考える。
はしづめ・しんや 京都大大学院、大阪大大学院修了。工学博士。大阪市立大教授、大阪府立大特別教授などを経て令和4年から現職。大阪・関西万博の誘致案策定にあたって中心的役割を担った。大阪府出身。64歳。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授