フェイクニュースの見分け方 客観的科学的根拠で判定 日本ファクトチェックセンター

真偽不明の情報があふれるネット時代に欠かせない、この活動を進める国内団体の一つが日本ファクトチェックセンターだ。編集長の古田大輔氏に活動や具体的検証方法などを聞いた。

» 2025年10月16日 10時07分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 ファクトチェック(FC)とは情報の真偽を検証することだ。その過程では客観的、科学的な根拠に基づく判断や公平性、透明性、信頼性などが求められる。真偽不明の情報があふれるネット時代に欠かせない、この活動を進める国内団体の一つが日本ファクトチェックセンター(JFC)だ。編集長の古田大輔氏(47)に活動や具体的検証方法などを聞いた。(慶田久幸)

NIE全国大会のパネル討議で発言する古田大輔氏(左から2人目)=7月31日、神戸市

検証は事実だけ

 JFCはこれまで、ネット上の情報など800本以上の検証を行ってきた。対象は影響する人の多さ、影響の深刻さ・身近さの3指標から選ばれる。

 7月30日、X(旧ツイッター)に、国民民主党の政策ポスター2枚に関する匿名の投稿があった。(参院)選挙前とするポスターには「消費税5%」「インボイス廃止」の記載があるが、選挙大勝後とする方にはなく、「消費税5%もインボイス廃止もしれっと無くなる」との文が添えられていた。参院選前後に政策が変更されたような印象を与える投稿で、300万以上の閲覧があった。

 JFCは、同党に問い合わせ、選挙前とするポスターは令和6年10月の衆院選、選挙後とする方は7年7月の参院選の同党の公式なものと確認した。消費税、インボイスに関する主張は、現在も政策パンフレットやホームページに記載されている、との検証過程を紹介。このXの投稿は「誤り」だと判定した。

 JFCは判定を「正確」▽一部に誤りを含むが重要な部分を含む大部分は正しい「ほぼ正確」▽「根拠不明」▽一部は正しいが重要な部分に誤りや欠落、またはミスリードがある「不正確」▽「誤り」−の5つに分類する。

 FCは「客観的に検証可能な事実」のみを対象とする。古田氏は「例えば、雲が出ている→雨が降りそう→傘を持っていこう、という文章があると、私たちができるのは『本当に雲が出ていたか』という検証だけ。雨が降りそうだから傘を持っていくと考え、行動するのは個人の自由」と説明する。

厳しい原則順守

 世界最大のFC団体連合組織、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)は(1)非党派性と公正性(2)情報源の基準と透明性(3)資金源と組織の透明性(4)検証方法の基準と透明性(5)オープンで誠実な訂正方針−の5原則を求めている。欧州ファクトチェック基準ネットワーク(EFCSN)は「可能な限りの1次資料の提示」「安全が脅かされる場合を除き情報源は実名」など、より詳細な規範を定めている。

 新聞社やテレビ局のFCについて古田氏は「原則や規範を満たすのが望ましいが、伝統メディアでは報道の慣習やシステム上の制約ですぐには難しいこともあるだろう。重要なのは信頼性を確保する努力だ」としている。

永遠に拡散続く

 4月29日、東京・霞が関周辺に『財務省解体』『厚労省解体』などのスローガンを掲げる人たちが集結した。JFCは5月3日、参加者らが主張する「WHOのパンデミック条約でワクチンが強制接種される」「財務省がスイスの銀行に13京円を隠し持っている」などの情報は誤りだと発表した。

 古田氏は「参加者は、財務省や厚生労働省は問題のある組織だというナラティブ(物語)を持っている。理由はコロナワクチンで体調を崩した、生活が苦しいなどの体験があるからだ」と説明。こうしたナラティブを持つ人は、FCがなかったら、誤情報・偽情報を永遠に拡散し、信じる人は増えるだろう、とその必要性を強調する。

個人でも検証を

 偽情報が減らないのは、流す人、拡散する人は多いがFCをする人はわずかだからだ。今では、人工知能(AI)を使えば、本物と見分けがつきにくい、偽の動画や画像、音声(ディープフェイク)も簡単に作れる。

 JFCはメディア情報リテラシー教育を活動の2本柱の1つとしており、オンライン講座で個人がFCを行う方法を提供している。

 講座は、偽情報は無意識のうちに非合理な考えをしてしまうなど偏りや先入観である「認知バイアス」を利用して作られる、といった理論から始まる。

 真偽の検証には、米のFC団体、ルーマーガードが紹介する5つの方法を勧めている=表。

ファクトチェックの5要素

 検索エンジンは常に正しい結果が出るわけではないので、「より正確で信頼できそうなサイトの情報を組み合わせる」「検索方法はキーワードを複数組み合わせる」などを提唱。画像・動画のFCについても、グーグル画像検索などを使えば可能だとしている。

 とはいえすべての情報を検証できるわけではない。古田氏は「新聞には重要なニュースが網羅されており、ウェブサイトでも読める。信頼できるニュースを効率的に得るのは難しいからこそ、網羅的に情報が読める新聞の価値が高まっている」と評価した。(慶田久幸)

 【日本ファクトチェックセンター】 ネット上の違法・有害情報対策に取り組む国内ネット企業を中心に構成される一般社団法人「セーファーインターネット協会」の下で令和4年10月に設立された非営利組織。

 【ふるた・だいすけ】 昭和52年生まれ。早大卒。平成14年、朝日新聞入社。27年退社し、BuzzFeed Japan(バズフィード ジャパン)創刊編集長。在職時にトランプ米大統領誕生、英国のEU離脱(ブレグジット)に関するフェイクニュースでファクトチェックの重要性を痛感。令和元年に独立し、4年から現職。

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