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» 2011年09月02日 07時00分 UPDATE

エンジェルの野望、目利きの役割:名もなきもの、新しきもの、幼きものにチャンスを与えたい (1/2)

新参者にチャンスを与えない社会、アートを手軽に消費する文化。矮小化する日本を救う手立てはあるのか。

[聞き手:加山恵美、鈴木麻紀,ITmedia]

 某月某日、パワー溢れる男たちが大手町に集まった。ケータイを舞台にアーティストの発掘・育成を行っている福田淳さんと、シンガポールから内外のスタートアップ企業を支援する加藤順彦さんだ。新参者にチャンスを与えない社会や、アートを手軽に消費する文化――日本の絶望と未来を、徹底的に語りつくした。

外への好奇心、内への探究心

 会話は、お互いの近況報告から始まった。加藤順彦さん(以下、加藤)は、3週間前に世界1周旅行から帰ってきたばかりだとのこと。元々ペルーに用事があったのだが飛行機代が高いとボヤいていたところ、友人の堀江貴文さんから「周遊券なら35万程度。8〜9回下りてもいいし、1年くらい有効だ」と教えてもらい、世界1周することにしたとか。ペルーから西回りで7週間かけて、いろいろと巡ってきたという。

 「最近ね、新興国を回るのが楽しみなんです。世界中の頑張っている日本人に会いたくて。とても刺激的です。TwitterやFacebookを使って、知らない人ともたくさん会うようにしています。ベトナムでは、8人が空港でぼくを出迎えてくれました」(加藤)

 外へ外へと元気に飛び出す加藤さんと反対に、福田淳さん(以下、福田)は最近、外よりも内に向かうようになったと言う。「ぼくはね、逆にもう新しい人と会わなくていいと思うんです。あまのじゃくなところがあるんです」(福田)

 以前はいろいろな人に会うように努めていたが、時間に追われてばかりいる自分に気付き極力初めての人との面会を減らしたという福田さん。その結果、時間に余裕ができてクリエイティブなことに時間を割けるようになってきたそうだ。「まだそんな年じゃないですけれど、残された時間を有効に遣わないと、と思っています」(福田)

コンテンツのスナック化

290x400_19246_110818_2.jpg 福田淳さん 株式会社ソニー・デジタル エンタテインメント・サービス 代表取締役社長 ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント バイス・プレジデントを経て現職、アーティストを発掘・支援する日々。

 今までの仕事の仕方を見ても、福田さんは独自のペースで動いてきたようだ。「ぼくは『後から』派かもしれません」。例えば、福田さんが立上げにかかわったスカパー衛星放送ANIMAX(アニマックス)は、後発組で成功したケースだという。当時、アニメ関連の衛星放送がすでに多数配信されていたが、日本では大人がアニメを見ているという事情に目を付け、子供向けだけじゃない総合編成のアニメチャンネル作りで成功した。先んじて成功するケースもあるが、後から熟慮して成功するケースもあり、後者は先駆者の失敗を学べるというメリットもあるという。

 「新しいものに飛びつくのもいいのですが、生き方としてしんどいと思うんです。常に流行を作り続け、追い続けなくてはなりませんから、エネルギーが必要です。氷河期が来ると倒れてしまう恐竜のような。それでぼくは最近、ずっと同じ場所にいるという戦略を選んでいます。低体温、低燃費で、派手なこともしない。流行を追わない人間というのは、実は流行をすごく追っていた人間だったりするのです。流行を追わないことの新しいスタイルを提示したいと思っています」(福田)

 メディアは可処分時間のある人間を対象にすることが大切だと考えた福田さんは、携帯コンテンツ(以降、ケータイ)産業に注目した。「部活が終わった後の中高生は、十分な時間があります。帰宅から就寝までの時間を費やすためのいいサービスを提供できたから、ケータイは5千億円産業にまで伸びたのではないでしょうか」。

 しかしケータイが普及するにつれ、1つ1つのコンテンツが軽く扱われるようになってきたともいう。自分が中学時代にABBAのコンサートを見て北欧に興味を持ったように、影響を与えるようなコンテンツを多く出していきたいと考える福田さんにとって、これは憂慮すべき事態だ。

 「今の子はコンテンツのことを『ネタ』って言うんです。ぼくたちにとってコンテンツは『ゴージャスディナー』だったのに、ネタと呼ぶことによって『スナック』サイズになってしまった」(福田)

 ケータイ文化は、コンテンツを生み出すクリエーターへのリスペクトもなくした。少し前に流行ったケータイ小説は、2作目以降が書けない作者が多かったという。「ブームから次の段階に行くにはいい編集者が必要です。最近、プロの審査を行わずに読者投票だけで大賞を決めるコンテストがありますが、目利きに審査してもらうことは大事です。読者投票は振るわなくても、優秀な作品があったりします。ネットというのは時に特殊な才能を逃すシステムだなと思うことがあります」(福田)

 福田さんの憂鬱に対し、オリコンの役員をしていたこともあるほど音楽業界が好きな加藤さんは、Amazonの考え方を例に挙げる。「通常のセールスランキングはゼネラルな=最大公約数な数字の積み上げなところがありますよね。一方、Amazonって最小公倍数だと思います。『あなたと同じ本を買った人は、こんな本も買っています』というリコメンドは、共通点をビジネスにしている。ネットはこっちに振れるだろうなと、ぼくは思う。(どれだけ多くの人が同じものを購入したのかという)マクロではなく、信頼できるミクロ(少数の購買行動)を見せて納得してもらう方に」(加藤)

 「そういえばかつてコンペで、綿密に調査したデータを提示した大手の広告代理店案に、信頼できる友人数人に聞いてぼくが『いいな』と思える案を出して、勝ったことがありました。たまたまかもしれませんけれど、数よりも少数でもいいから納得できる価値感を共有することが求められているのかもしれませんね」(福田)

 福田さんはさらに、ケータイ産業はクリエイティブの送り手にとって良い状況になったともいう。iモードからスマホへとデバイスが移ることで、iモード時代のキャリアメニュー獲得競争からコンテンツやアプリ提供側は解放された。(参入障壁が低くなることで)海外からの参入もあるが、逆に日本から海外へ出るチャンスもできるということだ。

 「紙のコミックをデジタル化してすごい売上を出した人は少ないけれど、実は、電子コミック専門の作家で、それだけの売上で家を建てた人がいるんですよ。ケータイならダウンロードで販売できます。世界中どこを探しても、電話料金と一緒にこんなリッチコンテンツが買える仕組みなんてなかなかありませんよ。こういうインフラがあることは希望でもあります」(福田)

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