なぜ経営現場でドラッカーを実践できないのか――ドラッカーの“マネジメント”……誤解し矮小化する経営者たち生き残れない経営(1/2 ページ)

経営者には真のマネジメントを実行する努力をしてほしい。そのためには自らを厳しく反省し、マネジメントの真に意味するところを学ばなくてはならない。

» 2012年01月23日 08時03分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

 昨年の記事で、マネジメントとリーダーシップの違いを取り上げ、ジョン・P・コッターとアブラハム・ザレズニック 両ハーバード・ビジネススクール名誉教授の見解を引用しながら、マネジメントを「静的に機能する」もの、リーダーシップを「動的に機能する」ものとした。

 もう少し振り返って解説すると、コッターはマネジメントを「計画と予算を立て」、それを達成するために「手順を組み立て」、「組織・統制・権限に依存する」とし、「階層とシステムを通じて、静的に機能する」と定義し、一言で表現すると複雑な状況に対処する役割だとした。一方リーダーシップを、「戦略を描き」、「人々を結集して士気を鼓舞し」、「変革を起こすこと」であり、「動的に機能する」と定義し、一言で表現すると変化に対処することだとした。そして、マネジメントがいかにも型にはまった機能であり、リーダーシップの機能を取り入れないと、企業経営はブレイクスルーができないと言わんばかりである。

 一方、ザレズニックは極めて興味深い分析をしている。彼は心理学者の立場から、マネジメントを実行するマネージャーを「人間味に欠ける」、「権力に妥協する」、「淡々と役割を遂行する」とし、一方リーダーを「能動的である」、「新しい方法論を用いる」、「情熱的である」として、マネージャーにリーダーの心を持つことを薦める。

 こういう議論をしてくると、経営者はマネジメントとリーダーシップの両機能を身につけなければならないことになる。それはそれでよしとして、しからば両機能を備えた経営手法はないのかという疑問が出てくる。ここでP・F・ドラッカーの出番である。ドラッカーの主張する「マネジメント」が、まさにこの両機能を備えたものとして定義されている。

 ドラッカーが定義する「マネジメント」を理解すると、世の中で一般的に定義されている「マネジメント」が、コッターが主張するようにいかに皮相的にしか捉えられていないか、あるいは誤解されているかがよく分かってくる。そして、世の中のほとんどの経営者や管理者、企業人がその狭義のマネジメントをなぞるように実践している。彼らのマジメントに対する誤解を解き、ドラッカーのマネジメントを理解して、実践してもらわないと、企業にとって悲劇である。

 ドラッカーの定義を解説する前に、誤解され、矮小化されたマネジメントが、経営現場で実践されている例を省みる必要がある。

 中堅の産業機器メーカーの一工場を管轄するA取締役事業所長の場合は、予算の立案とその忠実な実行、できれば予算を少しでも上回る実績を実現することが彼のマネジメントのすべてである。従って、A事業所長は予算を達成するためには、鬼のような厳しいフォローアップをした。

 予算未達成の部署には、人員削減、原価低減、外注費削減など、強引な積み上げノルマを課した。それでも予算達成が危ぶまれる時は、公用車両削減、電話やパソコン台数削減などのインフラにまで手をつけた。まさになりふりかまわない、消去法のマネジメント姿勢だった。従って、もちろん人材育成や将来事業に対する投資など、まったく念頭にない。それもそのはずだ、彼らはせいぜい数年の在任期間を無難に勤め上げれば済むからだ。変革を好まない。無難を好む。

 A事業所長は、前掲のコッターが指摘するように、まさに「組織・統制・権限に依存」し、「階層とシステムを通じて、静的に機能する」マネージャーの典型である。さらに不思議なことは、このメーカーではA事業所長のような予算達成型人材が評価される。従って、この種の企業では新しい事業に投資をする雰囲気、新しいシステムやプロセスに挑戦する雰囲気はない。

 もうひとつは、大手エレクトロニクスメーカーの情報機器関連事業部の例である。にわかに信じ難いだろうが、B事業部長のマネジメント手法は、いかにトップの指示に忠実に従うかである。事業部長たるもの、設計・製造・営業などを統括して、事業戦略を立案し実行に移すことだろうが、B事業部長はトップの指示に従うことがマネージャーの任務を果たす近道だとでも判断しているのだろうか。

 幹部会議でトップから赤字製品は止めろと言われれば「赤字製品はすぐ止めろ!」、人員を削減しろと言われれば「人を減らせ!」と自分の頭で消化もせずに、オフィスに急いで戻るや否や部下にそのまま指示を繰り出す。

B事業部長は、前掲のザレズニックが指摘するように、まさに「人間味に欠け」、「権力に妥協する」マネージャーの見本である。しかし不思議なことに、彼は取締役、常務取締役と見る見る昇進して行った。

 将来事業をおもんぱかって製品開発や人材育成に恒常的に投資をしたり、変化に敢然と立ち向かったりする優れた幹部も時には見掛けるが、A事業所長やB事業部長のようなタイプのマネージャーは、決して特異な例ではない。周囲を見回すと見つけるのに苦労はしない。

 もちろんそのようなタイプのマネージャーが存在すること自体が問題だが、彼らを厚遇するトップや企業の体質がもっと問題である。この種の企業では、1人のマネージャーではなく、企業揚げて間違ったマネジメントが実践されていることになる。

ドラッカーの「マネジメント」の定義

 さて、ドラッカーの「マネジメント」の定義である。前掲例のような狭量なマネジメントが行われないように、ドラッカーはマネジメントを改めて正しく定義したのだろう。彼らにドラッカーのマネジメントの定義に接し、己を恥じ、大いに反省し、それを正しく理解して、正しいマネジメントを実践して欲しいものだ。

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