組織のライフサイクルに応じたリーダー像ヘッドハンターから見たリアルリーダーとは? (1/2 ページ)

求められるリーダー像は、会社がどのステージにいるかによって変わってくる。「優秀」さの定義が変わるのだ。自分はどのステージで活躍できるかを考えてみてはいかがだろうか。

» 2012年06月05日 08時02分 公開
[石元聖子(ラストラール),ITmedia]

 今回は、組織のステージに応じて必要とされるリアルリーダーの資質や特性について、ヘッドハンターとしての立場で実際にその採用に関わってきた経験を踏まえて解説してみましょう。

 人間も会社も生き物であり、ライフサイクルがあるといわれています。

1980年代初めに会社の寿命(起業が繁栄を謳歌できる時期)は30年とされていましたが、2010年代ではもはや10年は確実に切ったといわれています。そういう中、会社のライフサイクルを人材の面に焦点を絞り、5つのステージに分けて見ていくことにします。

第1ステージ:起業黎明期

  • リスクが取られ起業がなされる
  • 製品開発期
  • リピートオーダー

第2ステージ:拡大成長期

  • 新たな機会が会社を引っ張る
  • 最優先課題ばかり
  • プランと現実の乖離

第3ステージ:転換過渡期

  • 旧経営陣と新経営陣とのバトル
  • コントロールと柔軟性のバランス
  • 創業者と起業のターニングポイント

第4ステージ:成熟期

  • 高いブランド力により市場を牽引
  • 優秀な経営陣
  • プロフィットセンターと本社のバランス
  • ROIと起業価値の最大化

第5ステージ:縮小加齢期 

  • 保守的、リスク回避
  • 過去の成功にしがみつく
  • 新商品が出ない
  • 市場を顧みず、内政に焦点
  • 高本社経費

(*IIOSS社『ライフサイクルモデル あなたの会社は何歳ですか?』より引用)

第1ステージ:起業黎明期

 まず、第1ステージの「起業黎明期」は、創業者がリスクをとって起業を決意するところからスタートしますが、「なぜこの会社を興すのか?」「この会社が存在する意義とは?」が問われます。そのビジョンに共有、共感した人たちがメンバーやサポーターとなり、会社が立ち上がっていきます。この時期においてのキーマンはやはり創業者あるいは創業メンバー(経営陣)であり、彼らのビジョンの大きさや思いの強さで社内外のステークホルダーを巻き込んでいきます。

 このステージはまさに生まれたばかりの赤ちゃんのようにひ弱で、何もない状態の中からサービスや製品を開発し、組織をつくり上げていくので、一匹狼的なタイプでハイリスク・ハイリターンを求める人たちがメンバーとして参加する傾向にあります。人にいちいち相談せずとも自主的、能動的に率先して実行する人たちです。いかに有能な人物であっても指示待ちタイプはこの組織では生き残っていくことはできません。つまり、組織自体が有機的な存在であり、かつビジネス場面においてはゲリラ部隊として局地戦で戦い勝ち抜いていくしかないと思われます。

 このステージのリーダーの資質として欠かせない力は、突撃隊長として臨機応変にその場その場で瞬時に判断しながら突き進んでいける直感力と突破力、そしてチャンスをつかむ握力の強さです。また、ビジョナリストたちは往々にして理想主義者であり、未来志向でもあるため、先を読み通す眼力はあっても、具体的なアクションへの落とし込みや、構想や企画を結果につなげられる仕事師的な面が弱いことも多々あります。その場合には現実主義で結果に執着する必殺仕事人的参謀タイプの人物を組織に巻き込めるかが、この会社が次のステージに進むことができるかどうかの鍵となります。

 残念ながらこのステージはヘッドハンターとしての活躍の場はほとんどありません。さまざまなリスクが高い状況ですので、創業者との人間的なつながりや信頼関係、あるいはビジネスそのものが大きく成長する要因がないと、メンバーとして参画しないケースが大部分です。

第2ステージ:拡大成長期

 第1ステージを乗り越えられた会社のみが、次の第2ステージである「拡大成長期」に移行できます。創業期の混沌とした中でチャンスをつかみ、ビジネスが急速に成長していくステージです。一気に視界がひらけてビジネスが急成長しますが、急成長したが故に問題も起こります。ビジネスの成長スピードに人が追いつかないために、戦略的な人の採用や育成といった人材戦略を考える暇もなく、大量に人の採用をせざるを得ない状況に陥りやすいのがこの時期です。最優先課題ばかりが山積みの状態ですべてが同時進行で進み、ミドル層が育たないまま組織が一気に肥大しプランと現実との乖離が大きくなります。

 通常このステージの初期は、管理部門の人事、総務、経理などの役割がきちんと機能していないため、採用に関して営業や企画部門の力が強く、現場主導で採用プロセスも進みます。意識的に将来のリーダー候補となりそうな人を採用し、育てていくという中長期的な視点よりも、即戦力で現場が使いやすい人という短期的な視点で採用が行われます。スキルや経験を重視して採用してしまい、後々禍根を残すこともあります。結果、急成長の組織にありがちな人的トラブルが起こり、一気にビジネスが減速してしまう危険性とも隣り合わせの状況です。

 このステージで気をつけるべき点は、現場サイドの人たちに採用を任せながらも、企業カルチャーとの適合性や人間性も同時に確認できるような体制を築くことが重要です。

 このステージで必要とされるリーダー像は、創業メンバーが遊撃戦で生き抜いてきたゲリラ部隊を、徐々に会社の組織として形作りながら組織運営ができる人です。具体的には社長室長や人事部長的立場で直接経営陣に意見を提言できる立場の人です。拡大成長期のビジネスチャンスを逸することなく成長路線に乗せながらも、常に抱えているリスクを意識して、時には成長を緩めてでも組織を再構築することの必要性を認識している人でしょう。

 ただし、あまり管理色が強いとビジネス寄りの経営陣や現場からの反発も受けますし、まだまだ脆弱な組織ですので、ビジネスの勢いを削ぐことなくうまく調整できるバランス感覚を持っている人だと思われます。

第3ステージ:転換過渡期

 そして、拡大成長期の混沌とした状態を乗り越えた会社が次の第3ステージである「転換過渡期」に移行します。この時期は会社のライフサイクルにおいてもターニングポイントといえ、個人商店から公器としての会社に変わっていけるかどうかを試されます。創業者、あるいは創業メンバーの影響力が薄まり、組織の再構築ができる管理の専門家が必要となり、外部から人事や経理、財務など管理部門のプロフェッショナル人材を登用し、早急に今ある人事制度や評価制度を見直し、現状に合う体制に作り直す必要性に迫られます。

 今までの属人性が強く柔軟な組織からセクションごとに役割を明確にし、きちんと機能する組織に方向性を変えざるを得ない時期でもあります。会社のステージが変わるため人の入れ替えが起きて、痛みの伴う変革が必要ですが、このステージをうまく乗り切れると大企業への道が開かれます。

 会社としては上場を目指しその準備に入り上場を果たせるかどうか、あるいはM&Aなども起こりうる時期です。ちょうどこの時期に旧経営陣と新経営陣(管理部門畑がメイン)との間に摩擦が生じ、今までの自由でフラットな企業カルチャーから階層的で管理的な組織に移行し、自由度や個々の裁量権が失われるように感じる時期でもあります。この時期に多々起こりやすいことは、旧経営陣が創業者のところに駆け込み、社内で推し進めている組織改革とは別の方法、あるいは元のやり方に戻してしまい、社内にダブルスタンダードができ、大混乱を引き起こしてしまうことです。

 この時期の新経営陣を採用、抜擢する際のポイントは、その企業カルチャーを会社の成り立ちから理解し、創業者の価値観やビジョンを残しながら組織変革を行うことです。最もまずいと思われるパターンは、大企業出身で大きな組織を管理した経験はあっても、柔軟性があまりない管理部門長を起用して大企業的な組織管理のやり方をそのまま取り入れてしまうことです。また、創業者層の位置付けが社内的に難しい時期であり、彼らの影響力が大きい場合には新経営陣が推し進めようとする社内改革の足を引っ張ることにもなりかねません。

 うまくこの時期を乗り越えられる組織は、創業者をファウンダーという立場で尊びながらも既存の組織から切り放し、新製品開発や海外展開など新規案件の担当責任者に位置付けて、その間に組織改革を一気に推し進めて組織力のアップを図っているように思われます。

 その場合に、創業メンバーや拡大成長期で創業者とともに苦労をしてきた人たちが組織を去ることもあります。組織のステージが変わることで必要な人材のニーズも変わってしまうため何ともしがたいですが、創業者にとってはかなり痛みを伴う変革であり、それに耐えかねてつい口を出すと新経営陣の立場を危うくしてしまいます。このような状況が続くと、今度は新経営陣たちが組織を去ってしまうことにもなりかねません。その場合には元の個人商店に戻ってしまいます。

 いずれにしてもこの時期は、その会社にとって適切な管理者を新経営陣に迎え、今までの企業カルチャーや企業理念を継承しつつ必要な変革のできる経営のプロをうまく活用し、組織を再構築する必要があります。このステージにおいて必要だと思われるリーダー像は、システマチックな管理体系を築ける合理的な発想と実行力を持ちながら、会社をもっと良くしていきたい、長く続けられる組織にしたいという前向きで熱い情熱を併せ持つ人物であると思われます。

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