起業家精神を刺激する「ひねらん課」気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1/3 ページ)

セプテーニ・ホールディングスは、ネットマーケティング事業を中心に、メディアコンテンツ事業、その他さまざまな事業を手がけている。今回は、社員約800人を有する同グループの社長・佐藤光紀氏に自身の組織マネジメント論について聞いた。

» 2013年12月04日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:小川晶子,ITmedia]

 今年セプテーニグループは、Great Place to Work(R)Institute Japanが実施した2013年「働きがいのある会社(日本版)ランキング」において、名だたる優良企業を抑え12位にランクインしている。同ランキングは、社員を対象に無作為にアンケートを行い、評点付けするという仕組み。(もちろん、人事制度に対する評点もある)。前年度30位からの飛躍を見ても、社員が生き生きしていると定評がある企業のひとつなのだ。

 セプテーニグループは、1990年に創業し2001年にJASDAQ上場。創業から20年あまりで、急激に企業規模を大きくした。しかし、急拡大した組織に起こりがちなマネジメント上の問題(人材流出や意思決定の遅れ、大企業病の発症など)に陥らないようさまざまな仕組みを取り入れ、現在でも起業家精神をもった人材を輩出し続けていることも、注目すべき点だ。

 同社の特徴的な制度のひとつに「ひねらん課」という、社内ベンチャー制度がある。「新規事業を立ち上げたい社員は、役員を前に事業企画や熱意を訴える場を与えられる」(同社談)――この制度により、社員のアントレプレナーシップを育成している。何を隠そう、現セプテーニの主力事業であるインターネット広告事業は、「ひねらん課」の1期生であった佐藤代表(当時、新卒入社3年目)が興した事業だ。「ひねらん課」より生まれ、収益性があると見込まれた事業は法人化し、グループ会社の1つとなれる。もちろん、発案者は代表に着任するのである。

 インターネット広告事業の成功をきっかけに、26歳で役員になった佐藤氏はその後グループの代表までのぼり詰めた。「年上の部下」「組織の急激な拡大によるマネジメントスタイルの変化」などの問題もあったかと思われるが、マネジメントのさまざまな危機をどう乗り越えたのだろうか?

経営の根底にあるのは、「アントレプレナーシップ」

中土井:佐藤さんは97年に新卒で入社し、3年目の24歳のときに自ら手を挙げて、インターネット広告事業を立ち上げました。インターネット広告事業はセプテーニグループの現在の主力です。

佐藤光紀社長

佐藤: 1990年の創業時は、人材採用のコンサルティングやダイレクトメールの発送代行といったアウトソーシング事業が主体でしたが、今の主力はインターネット広告事業です。セプテーニグループには、若手社員が手を挙げて新規事業を作ることで、会社を変えていくというカルチャーがあります。価値観の根底にあるのは、「アントレプレナーシップ」です。起業家精神とか当事者意識と言ったりもします。

中土井:セプテーニグループのすごさは、若手がやりたいことをやらせてあげるだけでなく、100%会社が乗るところだと思います。2001年に上場したときには、佐藤さんは若干26歳で役員になっていました。それだけ佐藤さんの事業に対する目のつけどころが良かったわけですが、それにしても会長の七村守さんはなぜそこまで任せることができたのでしょうか。

佐藤:なぜでしょうね……。(当時社長の七村とは)そういう話はしたことがありませんでした(笑) ただ、それまでは事業の中核ドメインを決めずに拡大させていたのですが、事業を絞って集中させる時期に来ていました。何に集中すべきかと言ったら、インターネット事業でしょうということで、経営方針を決めていきました。

中土井:現在はグループ全体で社員数は何人ですか?

佐藤:今は800人を超えるくらいです。わたしが入社したときは17、8人でした。

中土井:それだけ急速に規模が拡大する中でも、本質的に変わってないと思う部分はありますか?

佐藤:アントレプレナーシップを持った人材を最重要視するということです。当事者意識を持った社員が意欲的に経営に参加するというカルチャーは、規模が拡大しても変わりません。

 一方で、人数が増えれば一人ひとりの当事者意識が薄くなっていくのも事実です。そこでアントレプレナーシップを発揮する機会が減らないように工夫をし続けています。訓示のように「アントレプレナーシップを持ち続けよう」と言うだけではなく、そのためのインフラを整え、いろいろなシステムに対して、PDCAサイクルを回して改善していく。100%できているわけではありませんが、常に取組みを続けていくことが大切です。

働きがいのある環境を作り出すための細かな取り組み

中土井:モチベーションを維持するとか、イノベーションが生まれる環境を作るうえでは、その仕組みの独自性に着目することは多いと思います。でも、セプテーニグループでは、細かな改善をすごく大事にされています。

佐藤:そうですね。われわれが取り組んでいる施策は、決して珍しいものではありません。細かな運用とさまざまな取組みを通じて、社員に当事者意識を持たせ続けることを目指しています。例えば、新規事業の立ち上げを専門にしている「ひねらん課」という部署があります。会社の社是「ひねらんかい」にちなんで名付けられました。知恵を出そうとか工夫しようという意味です。お金や権威ではなくて、個人の知恵、情熱、行動力で会社が変わっていくという考え方をこの社是に込めています。

 「ひねらん課」では、最初の6か月で事業の計画を固めて、次の6か月で企業に挑むというのが基本ルールになっており、在籍期間中は既存の仕事はすべて引き継いで、新規事業に没頭することができます。

 この仕組みで事業を立ち上げたのは、わたしが最初です。われわれのグループにある企業のうち、結構な数が「ひねらん課」経由で生まれています。今「ひねらん課」は、新規事業立ち上げ専門のセプテーニ・ベンチャーズという子会社に設置しています。

 ここは新規事業のみで、今は合計3人の事業責任者が創業中です。理屈上は、事業会社になったときに売却をし、その売却益でそれまでのコストを賄うのですが、まだ売却していなくて事業化途中なので万年赤字です(笑)。

 グループ企業内では、月次決算を各社部門ごとに行い、最低でも月1回全員で共有しています。ベンチャーズは常に赤字なので、いくら新規事業に投資をしているかが、各メンバーに丸分かりです。自分たちの利益が、どれくらい新規事業に投じられているかが分かるし、ベンチャーズの社員からしても、どれだけ投資してもらっているか分かります。

SNS経由の採用でミスマッチを防ぐ

中土井:とても面白い仕組みです。話を聞いていて、すごく興味がわいたのが人材の質の変化についてです。上場すると、安定志向の人が増えてもおかしくないと思います。変わらずにアントレプレナーでいること、あるいはそういう人材を採用することが可能なのでしょうか?それとも、何か工夫をしていますか?

佐藤:何も工夫をしなければ、野心的な人材は入ってこなくなると思います。自分たちのフィロソフィー、企業文化を明らかにして、それにしっかりとマッチした共感できる人材が集ってくる状態をいかにして作り出すかが重要です。人材のミスマッチを防ぎ、自分たちが一緒に働きたいと思える人とたくさん出会えるように、いろいろな点で注意しています。

 ひとつ例を挙げると、採用のプロセスを数年前に大きく変えました。一般的な採用の流れは、大手の採用メディアに掲載して、登録、選考、入社となります。しかし、これでは何万人も応募が来ても、全員と接触することはできません。どこかで線引きをして、会う人を決めていかなければならなくなる。そうなると、どうしてもミスマッチが生まれてしまいます。われわれが会っている人と、採用したい人は必ずしも一致していないと考え、数年前から抜本的な見直しをしています。

 今では、新卒入社のうち7割以上の人とは、自分たちで運営するFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアや、インターンシップなど、採用メディア以外で知り合っています。採用チームが自分たちの情報を発信し、つながっていく。われわれの会社のスタンスと価値観に共感した人にソーシャルメディア上から応募してもらいます。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆