組織の成長は、徹底的に考え抜かれた原理原則の共有によって加速する気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1/2 ページ)

経営者の仕事は大きな枠、方針を作り社員のみんなの方向づけができるような明確な指針を現場に提示すること。基本的な原理原則に則っていれば、あとは社員たちがいいと思うことをやればいい。

» 2014年10月15日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]

 出口治明氏がライフネット生命を起業したのは、還暦を迎えた2008年。「生命保険料を半分にして、安心して赤ちゃんを産み育てられる社会を実現したい」という思いから始まった世界中でも類を見ない独立系インターネット生命保険会社だ。支店も営業職員も置かずにインターネットで保険を販売することで、保険料を従来の生命保険会社の半額程度にすることに成功した。徹底した合理的思考によって、組織をまとめあげる出口氏の組織マネジメントの流儀を探る。

女性が赤ちゃんを産みたいときに産める社会を実現したい

中土井:ライフネット生命は、他の生命保険会社と比べて、何が違うのですか?

出口治明氏

出口:昔からある保険会社と比べると、保険料が約半分になっています。ライフネット生命は、保険料を半分にして、若い人たちが安心して赤ちゃんを産み育てられる社会を作りたいという思いから始めた会社です。

 厚生労働省の統計によると、20代の若者の共稼ぎ夫婦の所得は約320万円だそうです。これでは、月1万5千円から2万円する従来の生命保険にはとても入れません。所得が少ない、シングルだからという理由で、子どもを産みたくても産めない女性が多い状況を変えたいと思ったのです。女性が子どもを産みたいタイミングと、経済状況は必ずしも合致しません。女性が子どもを産みたいときに産める社会が理想ですよ。

中土井:インターネットで生命保険を売ることで、保険料を抑えているそうですね。

出口:保険料を安くするためには、インターネットで生命保険を売るしかないと思い、ネット生保の業態を取りました。ネット証券、ネット銀行、ネット損保はありますが、ネット生保は世界中でも存在しなかった。生命保険は形のないものを売る商売です。お客さまと付き合う期間も長いです。短くても10年、長いと終身です。これまでネット生保がなかったのは、この時間の長さが理由です。信用されなければ、お客さまは私たちを選んでくれることはないでしょう。開業6年が経過しましたが、ライフネット生命はまだまだこれからの会社です。6年目の売り上げは76億円で、マーケットシェアで言うと、0.02%にすぎません。

起業のきかっけは偶然の出会い

中土井:問題意識を持つことはできても、行動に移すのはそう簡単ではないと思います。実際に会社を作り、結果も伴っているのが素晴らしいです。

出口:会社を作ったのは、あすかアセットマネジメントの谷家衛さんにたまたま出会って、一緒に保険会社を作りましょうと言われたからです。あまりに唐突なことだったのですが、即決で「いいですよ」と返事をしました。起業したのは偶然の出会いがきっかけだったのです。60歳で宝くじに当たったようなものです。何か思いを持っていても、人はひとりでは何もできません。いつ誰と出会うかが重要なのだと感じます。

中土井:偶然の出会いで起業を決めたとのことですが、迷いはなかったのですか?

出口:人間は割と躊躇しない生き物だと思います。その後の人生を左右するような本当に重要なことについては、意外にその瞬間で決断しているような気がします。

 例えば、プロポーズされたとき、女性はすぐには返事をしないことがありますが、本当は、言われた瞬間にイエスかノーを決めているといいます。ただ、両親への説得やその後の生活のいろいろなことを考えているから、すぐには返事をしないのだそうです。返事は決めているけれど、それが本当に正しいのかを確認しているだけなのです。

基本的な方針や原理原則を考え抜いて現場に提示し、権限移譲する

中土井:経営者として会社を率いるときに、最も重要だと思うことは何ですか?

出口:経営者の仕事は、大きな枠、方針を作ることだと思います。自分の中で腑に落ちるまで考え抜いて、決断をして、社員のみんなの方向づけができるような明確な指針を現場に提示するのです。基本的な原理原則に則っていれば、あとは社員たちがいいと思うことをやればいい。裁量の幅を広くするのです。

 例えば、CMを作るとき、私は基本的な方針や予算を示すだけです。どんな女優さんを使ったのかもできあがるまで知りませんでした。方針を決めたら、あとは社員に任せる。なぜなら、30代がメインターゲットの商品のCMに、60代の私が介入していいものができるはずがありません。その代わり、方針や原理原則、基本的なルールについては徹底的に考え抜くようにしています。

中土井:出口さんの言う原理原則には、徹底した一貫性があるように思います。考え抜く力はどこから生まれているのでしょうか。

出口:私は集中力がある方だと思います。ある問題に集中すると、他のものが見えなくなってしまうくらい考え続けることもよくあります。また、知識や事例をたくさん自分の中に持っているということも、考え抜く思考法に影響していると思います。私は大の歴史好きで、過去の歴史上の出来事などをケースとしてたくさん知っていたり、古典や動物学の本など、今でも週に3冊から5冊は本を読むので、そこから得る情報はとても多いです。旅に出かけることも好きで、今までに世界中の1300もの街を旅してきました。数多くの出会いの中で、あらゆるケースが私の中に蓄積されています。深く考えられるのは幅広い経験や知識のおかげです。

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