ITを活用したグローバル規模でのビジネスの拡大は、トヨタ自動車のような大企業に限った話ではないようだ。
社員数十名ほどを抱える福岡県のある金属商社は、90年代の不況により価格競争に巻き込まれ、一時、経営の危機に瀕していたという。状況を改善すべく、販売した商品の追跡調査を実施すると、そのほとんどがメーカーの倉庫に在庫として眠っていた。
「何とか販売にまでこぎつけたものの、そのほとんどが利用されていない。こうした状況を脱するために、この商社がまさに死に物狂いで編み出したのが、必用なときに必用なだけ鉄鋼を届けるという、ジャスト・イン・タイム型の販売手法だった」(財部氏)
同社は、このジャスト・イン・タイム型ビジネスモデルにさらに付加価値を加えた。これまで、メーカーが部品製造時に行っていた金属下処理まで代行することにしたのだ。これにより、発注元の部品メーカーは下処理設備を持つ必要がなくなる。それがうけた。
現在、同社は新たなビジネスモデルを武器に、取引先を中国地方や近畿地方にまで着々と拡大。下処理を行う工場の再配置など、物流網の見直しも進め、今では30%以上の売上高利益率を実現しているという。加えて、協力工場の経営者とともに上海に進出し、今後、部品の需要急増が見込まれる華南地区に対して、営業を本格的に展開する計画だ。
「ITを駆使すれば、これまで不可能だったことが可能になる。グローバルな物流体制の構築はもちろん、部品メーカーと在庫情報を共有し、ジャスト・イン・タイムが可能になったのもITがあったればこそだ」と、財部氏。
財部氏は、経営におけるITの価値を高く評価する一方で、過去の日本企業のIT投資を「まったくお粗末」と切り捨てる。その活用の主眼が事務作業の効率化に置かれ、新たな価値創造につながっているケースがほとんど見られないからだ。
今後、どの企業においても世界市場を視野に入れた環境変化への対応はもはや不可欠だが、環境の変化に気づける企業は少ない。
「特に日本企業の社長の多くは能力が不足していると言わざるを得ない。だから、社員が率先して最適と考えられる提案をすることが求められている」(財部氏)
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授