ビンテージワインは価値があるが、古くなった技術はそうではない。ワイン造りは農場から始まるものだが、ぶどう栽培からボトル詰めまでのすべての工程で、ITがますます利用されるようになってきている。
ワインビジネスは競争が激しい。ニールセンの調査によると、大手スーパーマーケットでは、ワインは店頭に平均588種類が並び、最大の商品カテゴリーとなっている。米国の約5000のワイナリーは、その陳列スペースの確保にしのぎを削っている。この業界では、ロバート・モンダビィ・ワイナリーを傘下に置くコンステレーション・ブランズなど、ごく少数の大規模な持ち株会社がエンタープライズクラスのITシステムを持っている。だが、ほとんどのワイナリーは小規模な家族経営を続けており、そこでは、「情報技術」(インフォメーションテクノロジー)はゲヴュルツトラミーナ(白ワインのぶどう品種)よりも発音しにくい言葉だと思われている。
「ワイン業界は、ITの活用が比較的進んでいない業界だ」とシュウィング氏は語る。「設備投資に重点が置かれていない。製造業や金融業でも、20年前には同様の傾向が見られた。ワイン業界では、ソフトウェアパッケージ間で情報をやり取りするのが非常に難しいことが悩みの種となっているが、応急的な方法でこれらを連携させているケースが多い」
バーンズ氏は4年前にコーベルの初代CIOに就任して以来、こうした問題に取り組んできた。同社はITの大規模な刷新、レガシーシステムの置き換え、インフラの強化、IT投資を競争力向上につなげるための基盤整備を進めてきた。コーベルは長年にわたってITに投資していたが、ITの統合や管理は十分に行われていなかった。
「われわれの以前のデータセンターは基本的に、オフィスを転用したものだった」(バーンズ氏)
コーベルは新しいデータセンターを構築するにあたって、冗長無停電電源装置(UPS)を新しいものに交換し、サーバへの電力供給の効率化を目的に電力システムを改良し、冷却温度を一定に保つために新しい空調システムを導入し、環境条件を改善した。新しいデータセンターは、従来の施設よりもキャパシティが33%大きく、今後数年にわたって同社のニーズに対応できる。
「ワイン業界はまだ全体的に立ち遅れている。それでも、わたしが入社して以来、業界は大きく変わった」とバーンズ氏。「コーベルにしても、中堅規模のワイナリーだが、IT化に非常に積極的だ」
バーンズ氏は4年前、車でロシアンリバー沿いのセコイアの森を抜けて、初めてコーベルを訪れた。ワイナリーでは、ツタで覆われた19世紀のれんが造りの建物を中心に、段々に連なるぶどう畑が近くの丘まで一面に広がっていた。「車で正門から入ってその景色を眺めたとき、わたしはすっかり心を奪われて、ぜひここで働きたいと思った」と同氏は振り返る。
19世紀にボヘミア(チェコの西部、中部地方)から亡命したフランティセック(フランシス)・コーベル氏とその兄弟が、サンフランシスコで建材会社F.コーベル&ブラザーズを創業した。同社はロシアンリバー沿いの町ガーンビル(同市から車で北上すること数時間)の製材所を買収し、製材業に進出。また、農業経営にも乗り出し、シャンパンの原料となるピノノワール種のぶどうを栽培するようになった。その後間もなく、ワイン造りが同社の本業になった。
だが創業家は1954年、3代目のワイン醸造家アドルフ・ヘック氏にワイナリーを売却した。ヘック氏は、リドリングを自動化するマシンの発明者だ。リドリングは、シャンパンの2次発酵で生じたオリを取り除くために、瓶を毎日わずかに回しながら徐々に倒立させ、オリを瓶口に集める作業で、以前は手作業で行われていた。同氏の息子のゲーリー・ヘック氏が、1982年に同氏の後を継いでコーベルの社長に就任。1980年代に同社は2ケタ成長を続け、スコット・ビンヤード、バレー・オブ・ザ・ムーン・ワイナリーといった同業者を買収した。現在、コーベルは年間に130万ケース以上を販売し、約1億5000万ドルを売り上げている。(後編に続く)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授