ナレッジスタジアムの主な狙いは、個人と組織の相互作用を活性化し、社員同士の友好的な競争のカルチャーを作るといった組織上の課題と、事業部内の知識共有のスキルアップ、顧客満足度の高い提案方法の開発などの営業上の課題の解決にあった。
ポータルを開設したことで、リアルな活動と連動した効果が発揮された。日本各地でナレッジマネジメントのワークショップを実施し、個人が得意とするナレッジを社内で発表するための「ナレッジ学会」も開催。学会リポートや研究グループ活動、匿名制による掲示板などもスタートした。
その結果、開設当初は2割程度だった利用率が2003年時には6割にまで拡大し、3日に1回は事業部員のほとんどが利用するまでになった。
ところが、2004年にエチコン事業部の組織体制が変わると、情報漏えいのリスクが高いことを理由に、ナレッジスタジアムが問題視され始めた。モデレータ(運営管理者)も不在となったことから利用率は急速に低下。活気のあった掲示板も閑散となり、ナレッジスタジアムの廃止も検討された。
そんな状況で、2005年に新たなモデレータとして就任したのが、エチコン事業部マーケティング部でマーケティングコミュニケーションチームに所属する戸上浩昭氏だった。
「手探りながらも、まず04年までに蓄積した資料や情報を洗いざらい整理し、アクセスしやすいよう検索ページを作りました。また、新たに社内ブログを導入することで情報発信の垣根を低くし、情報共有が進みやすい工夫をしました。それが、丁度、価値提案型の営業体制を目指していた組織と上手く合致しました」(戸上氏)
その甲斐あってか、ナレッジスタジアムの利用率は次第に回復。2006年には再び組織体制が変更されると、「ナレッジ学会」のようなイベントも復活を果たした。全員持ち回りのエッセイや、個人/チームによるブログの発信、限定的なテーマの掲示板やイベントコーナーもスタートするなど、それまでのファシリテーター(促進役)を置く意図的な情報提供スタイルから、自然発生的なコミュニティへと大きく変化していった。また、ナレッジスタジアムを日報システムと連携させることによって、営業活動がより「見える」ようになったという。
現在、ナレッジスタジアムでは、文献/DVD/資料などを検索・注文できる機能や、日報検索、顧客情報分析、コミュニティ、イベントカレンダーなどが配置されている。
個人ブログや持ち回りエッセイは感情を共有するインフォーマルなオフ情報として、またチームブログはプロジェクト/プロダクト/専門チーム単位でナレッジを共有するためのオフィシャル情報として分類されている。さらに、チームブログにコメントを入れるとその記事とコメントが掲示板に飛び、ナレッジの連結を狙っている。
「この感情の共有とナレッジの共有とを使い分けることによって、よりオフィシャルな情報が行動に結びつけやすくなります。それを掲示板を中心に流通させ、ナレッジのストックを資料検索などの機能を使って実現させています」と述べる戸上氏は、企業のナレッジマネジメントのあるべき姿とは、実際のアクションに結びつくこと、顧客に役立つこと、ビジネスにつながることの3つが重要だと強調する。
ITmedia 掲示板やブログなどの活用を促すためにインセンティブは必要でしょうか?
戸上 私は基本的に、インセンティブを使ったナレッジの共有は継続しないだろうと考えています。当社の場合は、ナレッジ学会などのリアルな活動と連携させることで、自分がナレッジを出すことで報われることもあると経験をさせる雰囲気作りを重視しました。
ITmedia 匿名を認める掲示板の運用リスクとは?
戸上 匿名を許している以上、確かに荒れる場合もあります。個人の誹謗中傷や顧客に関する機密事項や経営戦略上の機密事項に関しては、ファシリテーターの判断で削除することを明言することで規制をかけています。もっとも、長年利用していると荒れても誰かが調整してくれたり、あるいは自然に終息したりするものです。
また、掲示板は社内の状態を映すバロメーターともいえます。人事異動などの時期には不安を反映して荒れこともありますが、組織の健康診断という意味でもポータルは有効だといえるでしょう。
ITmedia ナレッジマネジメントの活用を促すための工夫とは?
戸上 まず、ポータルに社員が欲しいシステムを入れることですね。当社ではドクター向けの教育ツールが必要な場合、営業担当者が予約して取り寄せますが、予約一覧表を作って、誰がどこで使っているかを一目で把握できるようにしています。毎日ポータルを見る習慣ができたことで、結果的に掲示板やブログにも興味を持ってもらいました。また、中間管理職の利用が進まない課題もありましたが、日報の分析システムを導入したことで、自分の部下が指示通りの製品を営業しているか、ポータルにアクセスすれば自由に閲覧できるようにしています。とにかく見る習慣を作り、情報が目に入る状況を作ることが効果的だと思います。
※この原稿はenNetforum主催セミナー「EGM/社員が作る企業内の新しいメディアがイノベーションを起こす」での講演内容をベースに作成した。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授