部長や課長をはじめとするミドル層の約6割が働きがいを感じていない。これが日本社会の現状だ。一体何がそのような状況をつくり出してしまったのだろうか。
「頑張らない」。日本のミドルには、このように申し上げたいと思う。
30代の管理職を対象としたある調査によると、管理職としての自らのスキルや成果に対する自己採点の平均は、65.3点とのことである。大学の成績に置き換えれば、「可」である。「優」に相当する80点超の自己採点をしたのは回答者の11.6%で、逆に「不可」としたのは4割強にのぼっている*1。回答者がミドルの入り口に片寄っていることや自己採点であることを考えても、「自分はまだまだ」と思っている、あるいは悩んでいるミドルは相当数いると指摘できよう。
書店には、「初めての課長の……」「上司の……」といった書籍が山積みされている。「まだまだ」と思っているミドルには、こうした書籍に「仕事、もっと、頑張れ」と背中を押され、「仕事、もっと(あるいはもう少し)、頑張ってみよう」と気持ちを切り替える人も少なくなかろう。
しかしあなたは、心から「頑張ろう」と思える組織にいるのだろうか。
これは10年ほど前のある宴席でのことだ。共にのどを潤していたのは、筆者が講師を務めたある社外研修の受講生であった方々である。所属する会社の業種はさまざまだが、研修に参加していたのは当時脂の乗っていたミドルの人たちが中心だった。現在では彼らはトップ間近(あるいはグループ企業のトップ)として相変わらず各社のコアとなって活躍している。急な出張や会議のため参加できずにいた人もいたが、宴席はしごくにぎやかで楽しいものだった。
しかし宴たけなわというとき、しきりに携帯電話を気にする方がいた。誰もが名前を知っているであろう有名百貨店のミドルで、基幹店の副店長を務めていた方である。「どうされたのですか?」と筆者が尋ねてみると、「店内の飲食店で食事をされたお客さんが、そろそろ店を出られる時間なのです。この時間帯になると、飲酒されているにもかかわらずハンドルを握って店の駐車場から出て行こうとするお客さんがいるのです。店側としては当然注意させていただくのですが、すぐに『ウン』とは言っていただけないことが多くて困っています」とのこと。
「対応は部下の方に任されているのですよね?」と続いて聞いてみると、「任せているのですが、いろいろなお客さんがいるためなかなか任せ切れないわけです……」との応え。「これだけではなく、細々としたものも含めて多くのトラブル対応に毎日手を焼いています」とのことだった。
「あのクラスのお店の副店長ともなれば、店長とともに店舗の将来像を描き、その実現に向けて……」と筆者が教科書的な言葉を口にすると、「先生、わたしの仕事はそんな良いものではありませんよ」と嘆かれていた。
研修の場で自社の経営課題、そして将来のあるべき姿を真摯に語っていた方である。百貨店のサービスのあり方、部下の育成などについて熱い思いを語っていた。それゆえ、「仕事はトラブル対応だけ」という話を鵜呑みにすることはできなかった。しかし一方で、日々の仕事に忙殺されている、との感を筆者は持たざるを得なかった。
*1アルー(株)『管理職から見た「自分と部下」』 2008年5月
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授