次に、IT導入にためらうトップの勘違いの2つ目、「効果の変遷」である。ITが生み出す効果が以前と変わっていることを知らず、ITを導入してもさっぱり人が減らないではないか、帳票が減らないではないか……と、疑問を投げ続けるトップがいる。
IT導入による直接的効果を狙って白兵戦を展開したのが1960年代であり、1970年代から1980年代にかけて、「生産性向上」「効率向上」による残業時間削減、人員削減、帳票削減、経費節減など直接的効果を目標とした。その後1990年代にかけて、顧客囲い込みや在庫最適化などの優位性を狙った。その頃は、まだ効果に「見える形」が期待できた。しかし1990年代後半から、IT導入効果は「価値の創造」とか「価値の最大化」と称して、社内資産や顧客資産の最大化などが目的となり、効果が形に見えにくくなった。
ERP(統合基幹業務システム)、SCM(サプライチェーンマネジメント)、CRM(顧客情報管理)などは、基本的には情報の共有化、リアルタイム性、経営判断の迅速化、全体最適化、顧客の深耕などという形に見えにくい効果を狙っている。
従って、トップは流行に惑わされてIT導入するのではなく、自社の課題を明確にして何を改革し、何をITに求め、効果として何を狙うのかを明らかにして臨まなければ、効果が出ないというフラストレーションに悩まされることになる。
IT導入の効果は自然発生的に出るのではなく、成功のための条件を懸命に実行する必要がある。一方、IT導入効果を明確に設定して臨まなければ、何が効果か分からなくなる。
それをクリアするのがほかならぬトップ自身であり、クリアをすれば「効果が疑問だからIT導入をためらう」ということはなくなる。
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授