IT投資効果の迷信に惑わされる経営トップ間違いだらけのIT経営(2/2 ページ)

» 2008年09月08日 09時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]
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ITの直接効果は遠い昔の話?

 次に、IT導入にためらうトップの勘違いの2つ目、「効果の変遷」である。ITが生み出す効果が以前と変わっていることを知らず、ITを導入してもさっぱり人が減らないではないか、帳票が減らないではないか……と、疑問を投げ続けるトップがいる。

 IT導入による直接的効果を狙って白兵戦を展開したのが1960年代であり、1970年代から1980年代にかけて、「生産性向上」「効率向上」による残業時間削減、人員削減、帳票削減、経費節減など直接的効果を目標とした。その後1990年代にかけて、顧客囲い込みや在庫最適化などの優位性を狙った。その頃は、まだ効果に「見える形」が期待できた。しかし1990年代後半から、IT導入効果は「価値の創造」とか「価値の最大化」と称して、社内資産や顧客資産の最大化などが目的となり、効果が形に見えにくくなった。

 ERP(統合基幹業務システム)、SCM(サプライチェーンマネジメント)、CRM(顧客情報管理)などは、基本的には情報の共有化、リアルタイム性、経営判断の迅速化、全体最適化、顧客の深耕などという形に見えにくい効果を狙っている。

 従って、トップは流行に惑わされてIT導入するのではなく、自社の課題を明確にして何を改革し、何をITに求め、効果として何を狙うのかを明らかにして臨まなければ、効果が出ないというフラストレーションに悩まされることになる。

 IT導入の効果は自然発生的に出るのではなく、成功のための条件を懸命に実行する必要がある。一方、IT導入効果を明確に設定して臨まなければ、何が効果か分からなくなる。

 それをクリアするのがほかならぬトップ自身であり、クリアをすれば「効果が疑問だからIT導入をためらう」ということはなくなる。


プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。


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