機械大手のヤンマーは、把握しきれなかった補修用部品を追跡管理するために、GXSの物流可視化ソリューションを採用した。世界規模で物流の流れをリアルタイムに把握するシステムを7月より稼働している。
農機やエンジン、ボートなどの生産、開発を手掛ける機械大手のヤンマーは、世界の拠点で100以上の運送業者を利用して、製品の輸送を進めている。特約店やディーラーなどのパートナー企業は、補修用部品のカタログやマニュアル、発注状況などをWebサイト経由で確認していたが、部品が期日通りにエンドユーザーに届いたかを正確に把握できていなかった。
従来は、運送業者ごとに個別のシステムで部品を管理していた。ヤンマーは部品の所在を一元管理することを必要としていたが、コストや労力の観点から、システムやプロトコルが異なるデータを連携するための交渉や準備を進められていなかった。
そこでヤンマーは、企業間電子商取引(B2B)サービスのGXSが提供する物流可視化ソリューション「GXS Trading Grid Logistics Visibility」(Logistics Visibility)を採用し、部品レベルでの輸送情報の把握を進めている。7月にアジア地域、10月に米国で稼働を開始し、2009年2月には欧州でも稼働させる予定だ。
Logistics Visibilityは、4万超の企業が参加する共同ネットワーク基盤「GXS Trading Grid」を通じて、輸送貨物の情報をリアルタイムに把握し、納期や輸送の遅延を確認できるサービス。運送業者からの輸送状況や入荷予定日などを管理できる。在庫を持つ拠点から商品を転送することも可能で、余分な発注を抑えられるのが特徴だ。
製品の採用に当たりヤンマーが必要とした条件は(1)グローバル規模でのサポートの充実、(2)物流業者とのネットワーク構築実績、(3)電子データ交換(EDI)分野の専門知識を持つパートナー企業――の3点。これらを満たしたのがGXSのソリューションだった。
他社の製品やサービスも検討したが、「SASやSAP製品のように、受発注や在庫管理などが一体となったパッケージが多く、物流の機能はその一部でしかなかった」(ヤンマー)。同社は、受発注/在庫システムを社内で構築する予定だったため、運送業者との連携やデータの追跡に主眼を置いていた。これらの機能が実装できるとして、Logistics Visibilityを採用した。
システムの導入に要した期間は9カ月。数カ月から2年程度かかる見込みだったネットワークの構築期間を大幅に減らせた。基幹システムと同時に開発を進めていたため、「一般的には3、4カ月〜半年」(GXSの田中良幸社長)という導入期間よりは少し遅れが生じた。
アジア拠点での稼働から4カ月弱が経ち、課題も見えてきた。ヤンマーによると、「データを受け渡しする際に、一部のキャリアからの情報が欠落することがある」。「キャリア側のシステムに入力されていない、あるいは出荷時の伝票にルール通りに記載されていないことが原因」とヤンマーは推測。現在システム連携とキャリア側の業務部分で原因を調査しているという。
効果測定はまだ行っていない。稼働させた7月以降は、ほかの現地法人への基幹システム導入を優先しているためだ。「今後すべての現地法人でサービスの満足度調査をしていく」(ヤンマー)見込みだ。
コスト効果については「初期投資額は自社開発の方が安価」(ヤンマー)という。だが、システムの稼働に伴い、運送業者との調整や仕様の決定、インタフェースの数が増えた時の管理やメンテナンス、システム変更時の社内外の調整業務を考え、必要な開発要員や時間の振り分け方などを整備した。運用管理のコストは初期投資以上にかさむのが一般的とされる中、サービスの導入に伴い、ネットワークの運用体制も構築できたことは強みになるだろう。
GXSの田中社長はLogistics Visibilityについて、「(開発などで)数十億円を想定しなければならないコストを数千万円に抑えられる」と語る。データ連携などは同サービスのプラットフォームが自動的に吸収する。データの連携に限りある人材を投入する手間が省けるという。
ヤンマーのグローバルカスタマーサービス部で執行役員部長を務める芳野将文氏は「グローバル市場でし烈な競争が行われている今、アフターセールスサービスの分野で優位に立つことが生き残りの絶対条件になる。グローバル物流の可視化も重要な要素になる」と話している。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授