IT戦略の立案――景気低迷の今こそ企業に貢献するGartner Column(3/3 ページ)

» 2008年12月12日 10時33分 公開
[小西一有(ガートナー ジャパン),ITmedia]
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図4

 図4をご覧下さい。この図は、Gartnerがよく使う図です。システム(アプリケーション)が、企業内のプロセスを実装するために運用されているならば、このフレームワークがビジネスとITとの関係を一番上手に示していると思いませんか。

 さて、この図によるとビジネスプロセスは「コモディティ化されたビジネスプロセス」と「ビジネスに違いを生み出すビジネスプロセス」に分類されます。みなさんの企業でも必ずあると思いますが、全てのビジネスプロセスが「競争優位を生み出す」わけではないのです。たまたま、今はビジネスとして成立しているが、既に競合他社が、当社と同じ方法か当社と同じ価値を提供することに成功している場合は、競争優位ではありません。今後、急速に製品やサービスの低価格化が進んでいき、当該プロセスはコモディティ化するでしょう。

 経営トップは、このようなコモデティティ化した(する)プロセスに過剰に投資することを嫌います。IT投資についても、このようなプロセスに投資することは避けなければなりません。そのための第一歩として、自社の競争優位を生み出すビジネスプロセスは何かを選別することが重要なのです。

 しかし、CIOやIT部門で勝手に選別するのは危険です。ビジネス部門長を含めた経営トップ集団と十分にコミュニケーションをとって話し合いを持つことが重要です。その前にCIOやIT部門にはしなければならないことがたくさんあります。自社のビジネスプロセスを見つけ出すことです。現在の企業組織は、縦割りに管理されていますから、横軸方向つまりプロセス方向にはほとんど企業活動を捉えていません。

 本当にエンドツーエンドでビジネスプロセスを見つけ出せる人は、IT組織にいると断言してもいいでしょう。何がお客さまに対して価値を生み出すビジネスプロセスなのでしょうか。じっくりと探し出して、そして余すことなく全てのビジネスプロセスを見つけ出してください。決して1つや2つではありません。大きな企業になれば、事業部ごとにプロセスが全く違うかもしれません。それも全て洗い出してください。キーワードは、「エンドサイド(ほとんどが顧客のはずです)に価値を与えている自社のビジネス活動はどれか」です。

 ここまで、お話をしたら既にご理解された方もいらっしゃるかもしれません。「ビジネスプロセスを改善する」とはどういうことかということです。自社が競争優位を発揮している時は、顧客は、自社を選んでくれます。つまり、顧客に提供している価値が顧客に正しく伝わり他社では真似できていない価値を作り出しているのです。

 競争優位を生み出すプロセスが、どのような価値を生み出せば本当に競争優位を発揮できるのかを、関係者全員で議論することからビジネスプロセスの改善は始まります。決して、自部門の勝手な利益代表同士が押し付け合いをする議論ではなく、プロセス全体を見渡し、そのプロセスが目指さなければならない価値が極大化するように従来の自部門の価値観を捨てて話し合いをすることが、この改善プロジェクトのポイントなのです。

 では、これらのプロセスベースの考え方で、IT戦略を立案することとはどういうことでしょうか。洗い出されたビジネスプロセスのうち、競争優位を生み出すのはどれで、コモディティ化しているのはどれなのかを分類し、前者のプロセスを実装するためにITのリソースをどれだけ集中させることができるのかを考え調整することが、IT戦略の目指す方向です。これが、ビジネスプロセスとIT戦略を合致させる施策です。巷でよく言う、経営とITを融合させる第一歩なのです。

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著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー

小西一有

2006年にガートナー ジャパン入社。それ以前は企業のシステム企画部門で情報システム戦略の企画立案、予算策定、プロジェクト・マネジメントを担当。大規模なシステム投資に端を発する業務改革プロジェクトにマネジメントの一員として参画した。ガートナーでは、CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」の日本の責任者を務める。日本のCIOは、経験値だけでなく、最新のグローバル標準を研究した上で市場競争力を高めるべきとの持論を持つ。


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