残念ながら、日本においてプロセスとかプロセス改善の意味を正確にCIOや経営者に伝える役割を担う人があまりいません。Gartnerのノウハウを交えながらIT戦略を立案する方法を紹介いたします。
前回のコラムもお陰さまで好評のようでした。例によって、今回も皆さんからのご意見に答える形式で始めたいと思います。
「このコラムの1回目にITはビジネスプロセスの改善により、CIOやIT部門は企業に貢献すべきだと書かれていましたが、IT戦略をこの考え方に踏襲させる必要はありませんか?」というご質問、ご意見をいただきました。正直、この質問はとても嬉しかったです。今回の内容に則していましたし、そういう疑問やご意見を持ってくださる方が、このコラムを読んでいただけて光栄に思えたのです。
ここで、皆さんにお伺いします。ITは何のために存在するでしょうか?
→IT組織は、合理化・省力化支援のために働いていますか
→経理部EDP室とか呼ばれていた時代がありましたね、今でもそうですか。
→プロセス改善の責任もCIOやIT部門で背負っていますか
→経営者は、情報をどのくらい戦略的に使っているかが問題ですがね……。
図1をご覧下さい。これは、IT部門が進化していく過程を図示したものです。前述の文書を順に並べるとこんな図になります。大部分のIT組織が一番左端の「機能」に集中してコスト統制だけを目的としていました。しかし、この2、3年の間に1つ右の「サービス」に集中し提供しているITサービスの質の向上を目指して投資してきました。
ここにきて急速に「プロセス」に集中してビジネスプロセスの改善を意識してIT組織の活動を大きく舵を切ることを期待されているはずです。
残念ながら、日本においてプロセスとかプロセス改善の意味を正確にCIOや経営者に伝える役割を担う人があまりいないので、いまだに誤解されたり、よく分からないとおっしゃったりする方が少なくありません。
そこで、ビジネスプロセスやビジネスプロセスを改善するってどういうことかといった説明してから、プロセスをベースにIT戦略を立案する方法について説明したいと思います。
図2をご覧下さい。横方向に矢印が走っていますが、これがビジネスプロセスです。ビジネスプロセスは、サイロ構造になっている現行組織を横切ってビジネスを完結させます。プロセスの特徴は、縦割の組織を横断しているということです。1つの縦割組織の配下で、全て説明がつくものはプロセスとは言いません。企業は、良くも悪しくも縦型のサイロ組織を形成しています。縦型方向にガバナンスが効いており、上から下に指示命令系統が下から上に報告体制が出来上がっています。その縦方向の文化が強すぎると、組織外のことには一切無関心でいられますし、無関心でなければならなくなります(よその組織のことにクチを出すなと言われる所以ですね)。
特に欧米の企業では、他の組織のことは見て見ぬふりをするように教育されるようですから、たいへんです。日本の企業は、「とは言っても……」とすぐ隣の状況くらいは覗き見たりして、多少は気の効いたことをしてあげようと(欧米風の感覚だと)おせっかいを焼いてしまいます。そのことが、欧米ほど全社レベルでのプロセス改善を必要としなかった由縁ではないかと考えています。
先日、米本社のアナリストにこんな質問をしたお客さまがいらっしゃいました。
「Gartnerでは、CIOやIT部門はビジネスを見ろとかビジネスを知れと言い続けていますが、CIOがその同僚であるビジネスユニットの長よりもビジネスを知る必要があるのですか」
なかなか鋭い質問です。実は、私自身もこの質問の答えには大変興味がありました。すると、そのアナリストはこう答えました。
「答えはNoです。 (CIOたちを指して) あなた方がビジネスユニット長よりも、ビジネスのことをわかる必要はありませんし、ある意味で無理です」
このNoという回答には驚きました。しかし「ある意味で無理」と答えた「ある意味」にとても興味を持ちました。
すると、アナリストは、次のように続けました。「ビジネスユニット長は、サイロの一番上から、下を見渡しています。自分の組織のどの引き出しに何が入っているのかまで確実に知っています。CIOは、そんなレベルでビジネス組織を把握していませんし、それは無理です。一方で、ビジネスユニット長は、隣の組織で何をしているのか全く理解していませんし、興味もありません。そういう組織では、自部門の課題を隣に放り投げて自分の組織から課題を追い出そうとする風潮が現れます。課題を隣に投げられるのは、いわゆる声の大きい組織から小さい組織に投げられます。何が正しいかどうかは関係ありません」
何と、洋の東西を問わずやっていることは大して変わらないのだなと少しおかしくなりました。アナリストはさらに続けます。
「しかし、CIOやIT組織は、そのような理不尽を一瞬にして見抜くことができます。なぜなら、(CIOたちを指して)皆さんは、各サイロ構造の部署がそれぞれ何をしているのかを知っているからです。これをGartnerでは横ぐしでビジネスを見渡せると言います。私達が、CIOやIT組織にお願いをしているのは、ビジネスを横ぐしで見てほしいということで、これはビジネス・ユニット長よりも明らかに皆さんの方が良く見えるのです」と。
さて、図2の説明に戻りましょう。ビジネスプロセスは、図2の絵で言うところの左端と右端にいるエンドサイドに何らかの価値を提供します。この絵の場合、エンドサイドは顧客です。つまり、このビジネスプロセスは、顧客に対して何らかの価値を提供します。顧客は、特に意識することなくビジネスプロセス全体が提供する価値に期待して取引を行います。余談ですが、図2の右端の「回収」は、経理プロセスとして別に定義すべきという説もあります。私は、回収できなければビジネスにならないので、ビジネスプロセスの一つのピース(部品)として定義しました。
ここで、お気付きの方も多いかと思いますが、企業には、主要ビジネスプロセスとして定義しない、経理プロセスとか、財務プロセスとか、人事プロセスとか、ISプロセスも存在します。ISプロセスというのは、各組織から「システム開発変更依頼書」なるものが届いて、システムをデリバリするまでのプロセスと、保守・運用するプロセスに大きく分かれるのはご存知の通りです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授