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» 2009年05月26日 08時15分 公開

【第21回】自信と夢を織り込んだ経営戦略をミドルが経営を変える(2/2 ページ)

[吉村典久(和歌山大学),ITmedia]
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夢をビジョンに変えたホンダ

 これらに加えて戦略には、構成員の心理的エネルギーを醸成させる役割もある。人々に夢と希望を与え、やる気を高める役割だ。

 本田技研工業(ホンダ)の創業者、本田宗一郎は日夜、「世界一の車屋になりてえ」と夢を語っていたとされる。その夢をもう少し具体化したのがビジョンである。夢を持ちながら同時に、世の中の変化を冷静に見据えることでビジョンは導き出される。前回の連載で、本田宗一郎の補佐役だった藤沢武夫の著書を紹介した。二輪車の海外展開先として、ヨーロッパ、東南アジア、米国のいずれを選択するか迫られたときに、藤沢が出した答えは米国だった。部下が主張したヨーロッパや市場調査が後押しする東南アジアではなかった。

 米国に決めた理由を藤沢は著書の中で「わたしは『欧州はだめだ。アメリカに行け』と主張したんです。アメリカこそホンダの夢を実現できる主戦場だというのが、わたしのかねての考えで ……(中略)……というのは、世界の消費経済はアメリカから起こっている。アメリカに需要を起こすことができれば、その商品は将来がある」*2と語っている。この洞察から、まず米国で成功せねばならないというビジョンが導出されたのだった。

自信と夢を経営戦略に明示せよ

 あなたの組織には、夢やビジョンがあるだろうか。夢やビジョンはホラ話のようだが、心引かれる。具体的なビジョンが示されることで「いけるんじゃないか」と思い、ワクワクする。夢やビジョンはより具体的な形を取ることで、組織における意思決定の調整などの役割を果たしていく。ビジョンを具体的な数字で示した「経営目標」、こうすれば経営目標を達成できるという「アイデア」、アイデアを具体化し、どのような製品やサービスを、どのような顧客に、どのように提供するのかを簡潔に示した「コンセプト」、これらを実現させるための「中長期計画」や「予算」がある。

<strong>図3</strong> 構想としての経営戦略の階層性 図3 構想としての経営戦略の階層性

 ミドルの方の中には、所属部門の年度予算のみならず、事業部や全社レベルでの中期経営計画策定に関与されることも多いかと思う。中計のみならず、「○×ビジョン」や「XY年度に向けての方針」といった形で、より抽象度が高い計画の策定にかかわる方もいるはずだ。周りのミドルの方から「前年度比、何%マイナスで予算を立てた」、「未達になると責められるので、中計などで示す数字は控え目にする」といった声を聞く。面倒だとの思いに加えて、相当に気の重い仕事となっているようである。

 現在の経済情勢をかんがみれば、仕方がないことかもしれない。トップが語る夢は、夢とは思えない現実的なものであるため、それに沿って策定されたビジョンや予算に対して社員がワクワクできるとは思わない。しかしながら、事業部門全体あるいは会社全体を引っ張っていくための策作りに立ち会うミドルには是非とも、「自信と夢の明示」という役割があることを認識しておいて欲しい。

 株主総会を前にして不謹慎かもしれないが、皆がワクワクし、士気が上がるような戦略が求められるのではなかろうか*3


*2 藤沢武夫『松明は自分の手で』PHP出版、2009年、86ページ

*3 藤沢[2009]の136ページから140ページには、いわゆる「鍋底景気」のなかで藤沢が「士気をあげる」ために新規の設備投資を断行したことが記されている



プロフィール

吉村典久(よしむら のりひさ)

和歌山大学経済学部教授

1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。



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