【第1回】プロローグ 亀の歩み経営に回帰せよ21世紀市場を勝ち抜くIT経営(1/2 ページ)

未曾有の経済危機によって全世界が苦しんでいる。しかし景気悪化は今に始まったことではなく、長らく続いていたのである。そのことにいち早く気付き、市況を活性化させることが21世紀の経営に求められるのだ。

» 2009年07月17日 08時15分 公開
[上村孝樹(ジャーナリスト),ITmedia]

 2008年秋のサブプライムローン破たんが引き金となり全世界が同時不況の波に巻き込まれた。米国大手金融会社が倒産し、ついには世界最大の自動車会社であるGeneral Motors(GM)の経営破たんにまで及んだ。世界恐慌の様相を呈しパニック状況に陥った。

 100年に一度の未曽有な危機と言われているが、嘆き、悲しんでじっとしていても何も解決しない。事態を冷静に分析して急激な変化への対策を積極的に講じていかなければならない。世界各国でこれまでにない規模の緊急的金融支援を実施しているが、わたしは一時的な効果はあっても問題の本質的な解決には至らないと考えている。

 わたしが10年来、主張してきたことだが、実体経済が立ち行かなくなってしまった真の原因は、実はほかのところにあるのだ。それは、20世紀の象徴であった大量生産・大量消費に代表される成長経済が終焉し、とっくに非成長型経済に突入しているにもかかわらず、そうした市場構造変革に対する対策を怠ってきたことだ。急に景気が悪くなったのではない。実は、実体経済から分析すれば、これまでずっと景気が悪い状態が続いていたのだ。まず、そのことに気付くべきである。

 例えば、日本経済をけん引してきた自動車業界であるが、国内自動車販売台数(軽を除く)に着目すれは1990年の600万台をピークにしてずっと下がり続けているのである。このまま推移すれば、ここ1、2年でピーク時の2分の1、つまり300万台の水準まで下がると予測されているのだ。地方の地場産業、伝統産業は21世紀突入する前後から、それ以上に深刻な状況がずっと続いている。総出荷額をみるとほとんどは産業が、過去10年間で最盛期の2分の1以下になっているからだ。

好景気が続いている錯覚

 政府や大企業が抜本的な市場構造変革への対策を図らずに、これまで築いた枠組みを維持することを優先したからと考えるが、21世紀に入ってゼロ金利、ペイオフを導入した。それと併せて、会社や技術、不動産など資産・財産として考えられるあらゆるものを証券化する政策を実施して流動化させ売買させる金融資本主義市場を一気に構築した。それによって個人の貯蓄を証券市場などリスクマネーに移転させ、経済のバブル化を引き起こしてGDP(国内総生産)が投機需要によって膨らむ状況を創り出した。好景気が続いているような錯覚が与えられたのである。

 しかし、実体経済と連動しないで金融市場の活性化だけによってバブル化させマクロ的成長を突き進めて仮想の利益を生じさせるやり方では、所詮、長続きできるわけがない。皆が金融商品を購入して何もしないで寝て待っていたら法外な利益が得られる、というようなことが論理的に考えて長く続くわけがないことは誰でも判断できるだろう。行きつく先は、当然の帰結、信用収縮による金融市場の破たんである。

 従って現在、各国の政府が行っている巨額の金融機関に対する緊急の支援策では、一時的な危機状況を回避する応急措置的な効果しかなく、本質的な経済活性化を期待することはとうてい不可能であるということを冷静に考える必要がある。

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