ドーハの選手村ではこんな“事件”もありました。朝、起床後の散歩と体操が日課だったのですが、選手村内のウオーミングアップ用グラウンドで体操を終え、皆で集まった時のことです。キャプテンの鈴木勘弥選手の掛け声で皆が一斉に長野選手を取り囲みました。次の瞬間、「チョーノ、誕生日おめでとう!」という発声とともに、それぞれが手にしたペットボトルの水を祝福代わりに長野選手に浴びせたのです。
突然の出来事に、びしょぬれになりながら呆然と立ちつくすも「ありがとうございます」と返す長野選手。皆はにこにこ大笑い。ドクターのわたしとしても「風邪をひくからやめろ」なんて野暮なことは言いません。チームが一体になった良い瞬間だなと、慌ててカメラのシャッターを押したのでした。
このアジア大会で日本チームは銀メダルを獲得しました。WBCと同様に全員がプロ選手で構成された韓国チームには、長野選手のサヨナラホームランで勝利し、金メダルを取れば兵役免除のはずだった韓国選手の夢を打ち砕きました。そして金メダルのかかった、やはり全員プロの台湾戦では、選手村で親交を深めた体操の富田洋之選手もスタンドに応援に駆けつけてくれました。9回まで1点リードしていたものの、惜しくも逆転サヨナラ負けを喫してしまいました。とても残念でしたが、皆で声を掛け合い、励まし合い、高校球児のような気持ちで戦うことができた素晴らしいチームでした。
長野選手も昨年は悩んだと思います。いろいろな人が多くのアドバイスをしたことでしょう。恐らく「巨人にこだわらずにプロへ行け」という意見が多かったのではないでしょうか。それでも、彼は自分自身が決断した道を進みました。
長野選手の素晴らしいところは、その間ずっと、プロから指名してもらえる選手であり続けたことだと思います。社会人野球の先輩たちからもかわいがられ、応援してもらえました。誰もプロに行くための腰掛けなんてことは言いませんでした。真面目ですべてにひたむきな長野選手だからこそです。
「巨人のチョーさん」と言えば長嶋茂雄終身名誉監督ですが、厳しいプロの世界でも頑張って、ぜひ新たな巨人のチョーさんと言われる選手になって欲しいです。
再び全日本の一員として今度はWBCの舞台に立とう! 応援してるぞ、チョーさん。
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小松裕(こまつ ゆたか)
国立スポーツ科学センター医学研究部 副主任研究員、医学博士
1961年長野県生まれ。1986年に信州大学医学部卒業後、日本赤十字社医療センター内科研修医、東京大学第二内科医員、東京大学消化器内科 文部科学教官助手などを経て、2005年から現職。専門分野はスポーツ医学、アンチ・ドーピング、スポーツ行政。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授