すでに述べたように、カルビーではBSCの4つの視点、すなわち「財務の視点」、「顧客の視点」、「学習と成長の視点」、「社内ビジネスプロセスの視点」から、戦略を現場レベルの施策に落とし込んできた。具体的には、「21世紀型スナックビジネスの創造」を経営戦略に掲げるとともに、その実現に向け「感動レベルの品質の実現」といった目標を社員に提示。そして、目標がどれだけ到達されたのかを測るため、損益分岐点比率や店頭鮮度、付加価値生産性、製品不良率などをKPI(重要業績評価指標)に設定する。ITを活用することでそれらを可視化する仕組みを作り上げてきたのだ。
「情報を可視化しKPIを定めるとともに、戦略とKPIをひも付けることで、戦略を現場レベルで容易に理解することが可能になる。当社の“経営コックピット”は、その実現に向けた欠くことのできないツールにほかならないのだ」(中田氏)
カルビーの経営コックピットは、各地域カンパニーの売上高や在庫などの経営情報を全社員が一元的に把握できるようにしたものだ。その構築にあたっては、経営の見える化を図るための各種の工夫が凝らしたという。地域カンパニーごとの指標の「バラツキの見える化」もその1つ。同一指標について、複数組織と全社での合計値のグラフを同時に表示し、各グラフをクリックすることでその下位組織の状況や地域ごとの数値の違いが把握できるほか、指標のドリルダウン分析も行えるようにしたのである。
また、各種の指標の因果関係を分析するために、「因果関係の見える化」も図った。経営コックピットで把握できる指標は、例えば「売上高」であれば、来客店数や顧客の購買率、客単価など要因により大きく左右する。そこで、関連性のある指標を組織ごとに並べて参照できるようにし、指針が悪化/改善した要因を容易に把握できるようにしたのである。
さらに、「傾向と直近の変化の見える化」を実現するために、52週の平均数値である折れ線グラフと、週ごとの数値の棒グラフで併せて表示するとともに、対前年比を棒グラフで色分けして表示する分かりやすいインタフェースを採用した。
「折れ線グラフによって、右肩下がりであれば悪化傾向、右肩上がりであれば改善傾向にあることがひと目で把握できる。各種対策を講じた後の効果測定も活用することが可能なのだ」(中田氏)
中田氏によると、経営の見える化を図る上で、1つの画面に情報を盛り込みすぎないことがポイントなのだという。
「多数の情報を提供しようとするあまり、ユーザーインタフェースが分かりにくいものになってしまっては、逆にシステムの利用を阻害しかねない。そのため、目的に応じて表示すべき情報を厳選することが極めて重要になるのだ」(中田氏)
中田氏は現在、カルビーの経営コックピットのエンジン部分をベースに開発されたパッケージを用い、同様の環境をイージーオーダー型で提供することにも取り組んでいるという。その利用の裾野は、今後ますます拡大していきそうだ。
※早稲田大学IT戦略研究所が開催した「第28回 インタラクティブミーティング」での講演を基に構成。
景気底打ちへの期待が高まっているとはいえ、まだまだ先行きが不透明であることに変わりはありません。日本企業は、徹底的に無駄を省いて耐えてきた中、景気の底をようやく確認できるところまできましたが、デフレ傾向は今後も続くとみられています。日々噴出するビジネス課題に素早く対処するのはもちろんですが、真の課題を見極め、取り組むことが企業の経営者に求められています。
商品が売れない、在庫が積み上がる、という問題も現象に過ぎません。多くの企業では、ERPのような情報システムのおかけで、さまざまな数値を把握できるようになりましたが、それらから何を気づき、何が真の問題かまでは教えてくれません。解くべき問題を間違えれば、いくら優れた答えを出したところでビジネスには役立たないでしょう。
第12回 ITmedia エグゼクティブセミナーでは、経営者に最も求められるのは、問題を解くことではなく、解くべき問題の定義=「論点抽出」だとする元ボストンコンサルティンググループ代表の内田和成早稲田大学商学学術院教授をお招きし、論点思考の重要性についてお話しいただきます。また、「鮮度」を重要指標とし、経営の高度化を実践するカルビー株式会社の中田康雄相談役に特別講演いただきます。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授