企業のシステム構築においてクラウドを利用する際の注意点として、ベンダーへのロックインについて考えてみます。
前回は、企業のシステム構築においてクラウドを利用する際の注意点として、企業のオペレーションを劣化させるリスク、ベンダーへのロックインが進むことによる利用者側の交渉力が低下するリスクの2つを指摘しました。加えて、ベンダーにとっての注意点として、クラウドは近い将来「無料化」するため、ユーザーへの課金が困難になることを解説しました。
この中から、今回は2つ目のリスクであるベンダーへのロックインについて考えることにします。
クラウドの導入に当たって必ず出る疑問は、データを外部に置くことのセキュリティ面での安全性です。この点に関しては、信頼できるベンダーを選択さえすれば、自社保有に比してリスクが高まる理由はそれほどないのではないかと思われます。
システムを外部に委ねることでまず考えるべきリスクは、かつてフルアウトソーシングを採用した多くの企業が悩まされた(そして今でも悩まされている)悩みと同じものです。
アウトソーシングを利用している多くの企業では、利用開始から数年が経過し、スイッチングコスト(注:別のベンダーへの変更のコストのこと)が一定値を超えた時点から利用者側の交渉力が極端に低くなっていく状況に直面しました。つまり、変えたくても変えるのにコストが掛かり過ぎる状態になっているため、踏み切れなくなってしまったわけです。
この上昇の最大の理由は、利用者側にとってのシステムのブラックボックス化です。自社のシステム構成や処理内容を把握できなくなる状況が、急速に進行する点が挙げられます。
ブラックボックス化された状態では、システムの変更や改善が必要な場合でも、その実現性の判断はもとより、コストや期間の見積もりについても利用者自身の判断は難しくなります。結局、ベンダーの意図に依存することになります。あえて品の悪い言い方をすれば、システム資産という「人質」を握られた状況です。
スイッチングコストを上げる要素はブラックボックス化以外にも、システムの利用が始まってから蓄積され始めたデータや、操作に馴染んだユーザーの増加、(場合によっては)手間を掛けた自社の既存システムとの連携処理など簡単に挙げられますが、下げる要素を探すことは難しいものです。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授