日航、IBMの提携解消に思う戦略コンサルタントの視点(2/3 ページ)

» 2010年06月29日 12時40分 公開
[大野隆司(ローランド・ベルガー),ITmedia]

契約で権利の確保はできたものの……

 結論を言えば、契約で「権利」は確保したものの、その権利を「行使する環境」が未整備であったのではないかと推察されます。具体的にあげれば、既存システムの「ブラックボックス化」の温存ということになります。

 どこの企業でも、長い付き合いのあるシステムベンダー以外への発注はなかなか難しいのが実態です。この理由は、新規ベンダーへ変更しようとした場合のスイッチングコストの高さにあるのですが、このスイッチングコストを高くしている最大の原因は既存システムの「ブラックボックス化」にあります。

 ブラックボックス化とは、既存システムの中身の知識や経験値が、特定の個人やベンダーのみで保有されており、つまり周りからは「見える化」がされていない状態を意味します。

 ブラックボックス化している状況では、長い付き合いのある既存ベンダーが、新規参入を図るベンダーに対しては、圧倒的に優位なのは言うまでもありません。既存のシステムを新しいシステムに置き換える場合には、(既存システムの調査分析の作業が不要な分)コスト面でも、開発期間の面でも既存ベンダーが優位に立つことになります。

 また、新規システムを構築する場合でも同様のことが言えます。

 新規システムは既存システムとデータの連携・接続(これをインタフェースと言います)が必要ですが、インターフェース処理用の既存システムの調査分析・設計・開発に費やされるコストは、総コストの50%になることもあるからです。

ロックイン戦略、ブラックボックス戦術に対応できたのか?

 システムベンダーの営業戦略の1つとして「いかに顧客をロックインするか」というものが挙げられます。

 ロックインするためには、スイッチングコストを上げておくことが最も効率的であり、そのためにはブラックボックス化を維持・進行させることが最も「オーソドックス」な戦術と言えます。よって、発注者側としては、システムベンダーの戦術にうまく対応していくことが必要となってくるわけです。

 システムの「見える化」の手法はさまざまなものが存在しますが、2003年から日本ではEA(Enterprise Architecture)という手法を用いた「システムの見える化」が流行しました。この時点で、日航側から「EAを用いたブラックボックス化の解消」の要請があっただろうと常識的には考えられます。

 ただ、今回の提携解消の理由からみるに「見える化」の取り組みが十分に成果を出せていたとは言えませんし、万が一「見える化」に対する要請がなされなかったとすれば、それは「不覚」と言わざるを得ないでしょう。

 さて、アウトソーシングの提携解消の効果を享受するためには、なにが必要となるのでしょうか。

「見える化」により早急な効果刈り取りを

 まず「見える化」を、メリハリをつけて実現することが必要でしょう。

 これには相応の投資・期間が必要となりますが、とても大きな効果をもたらすことが考えられます。中でも「調達先の候補」が国内外を問わず飛躍的に拡大するという点が、短期的に大きな効果をもたらすでしょう。

 これによって、大きなコストを費やしているシステムの保守・運用業務をオフショアベンダーに切り替えることで、大幅なコスト削減を実現するといった大胆な戦術も現実味をもってきます。(ただし、この場合にはJIT社員の仕事が消失し、雇用対策の問題が出てくる可能性もあるかもしれません)

 見える化には時間がそれなりにかかります。だからこそ、早めに着手することが必要なのです。

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