川口の指導による4人の勉強会の成果発表を受けて、情報システム部長の秦野は、彼らの提言を具体化させるための指示を矢継ぎ早に出していった。情報システム部の範囲にとどまらない改革が動き始めた。
内山悟志の「IT人材育成物語」 前回までの連載記事。内山悟志の企業IT相談室(エグゼクティブ・コミュニティー)
プレゼンテーションが行われた翌日から、プロジェクトが次々と立ち上がり、勉強会に参加した4人それぞれにプロジェクトリーダーの任務が課せられた。通常の業務をこなしながらのリーダーであるため目まぐるしい毎日が始まったが、4人には改革意識が強く芽生え始めていた。誰かから命じられたことではなく、そもそも自分たちが提案した改革であることが最大のエネルギーとなっていた。
4人の誰がどのプロジェクトを担うかは、各自が希望を出し、話し合いによって決めた。情報システム部の奥山は、『技術シーズの調査・適用性検証に関する発表会の定期開催』をテーマとして選んだ。探究心旺盛で新しい物好きの奥山には、打ってつけのテーマといえる。奥山は、秦野部長に依頼し、若手を中心としたメンバーを結成して、これに臨むことにした。
もともとアプリケーション開発を担当していた宮下は、『短納期システム開発手法に関する研究会の設置』を選んだ。事業部門からの開発・保守依頼は増加傾向にあり、従来からのシステム開発のやり方には限界を感じていたことも大きな理由となった。宮下は、自ら開発チームのベテランを何人か仲間に引き入れた。従来の開発手法で長年経験を積んできたベテランは、これまでのやり方が大きく変わることに抵抗感を持つことが予想される。それならば、検討の段階から巻き込んでおく方が、当初は難航したとしても結果的に定着する可能性が高まると考えたためである。
経営企画部から参加した浅賀と阿部は、それぞれ『経営者が参画するIT戦略委員会の設置』と『ユーザー向けにITに関する啓発セミナーの定期開催』を担うこととなった。これらは、情報システム部内の改革というよりは、全社への働きかけが必要となるテーマといえる。
浅賀は、情報システム部の企画課長である野坂を味方につけた。野坂も、IT戦略委員会の設置は、かねてからやりたいと思っていたと述べ全面的な協力を約束した。さらに経営企画部から2人をメンバーに加えた。経営層との橋渡し役は経営企画部長の吉田が買って出た。
阿部が担当することになった『ユーザー向けにITに関する啓発セミナーの定期開催』には、人事部長の渡辺が全面的に協力し、人事部のメンバーを何人かアサインしてくれた。情報活用は、業務部門の社員にとっても必要不可欠なスキルとなっており、人事部としても重要なテーマだと認識していた。体制が整い、4人のリーダーシップが問われるプロジェクトがそれぞれに始動した。
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