みなみほど、マネージャーの資質を自ら問い、組織の定義を突き詰めて考え、顧客を捕らえようと必死に努力した経営者に、筆者は今まで1人として出会ったことはない。
従って、多くの経営者はあらゆる場面で自分がすべて正しいと思い込み、企業は利益を得ることが目的で、顧客は二の次。その結果、往々にして聞く耳を持たず、利益至上主義、「顧客のために」は社内訓辞と、事故を起こしたときの外部弁解のセリフにしか過ぎない。
みなみは、いよいよ行動を起こす。まず、マーケティングだ。部員や監督の欲求や価値を知ることがマーケティングだと気づき、人気のある友人を使って彼らに対して徹底した聞き込みを開始する。さらに、専門家にとってコミュニケーションが問題であるという教えから、専門家である監督の通訳になろうと決心する。
家電メーカーや化粧品メーカーの設計者が、家電品あるいは化粧品の試作品を持って、秋葉原電気街やデパート/ショッピングセンター化粧品売り場を訪ねて意見を聞くのはまだよしとして、大企業の某電気メーカーではコンピュータで集計された顧客情報やクレーム情報を、設計者が「そんなことは、既に知っていること」と目もくれない。では、本当に必要な情報を得る工夫をしているのかというと甚だ疑問で、その上実態を知らない経営者は真に必要な情報を得るための改善指示も出せないでいる。
中堅の某什器メーカーは、軽量でエコに適した椅子を製品化し、営業部門はその新製品を支持したが大阪支店長だけが「安っぽい」と批判し、社長は大阪支店長が賛成するまで市場に出すことを禁じた。何のことはない、日頃大阪支店長の声が大きいだけで、社長はマーケティングをしてみようとさえ思いつかない。結局、他社に後れを取ることになる。
そもそも、経営者から「マーケティングを徹底しろ」という総論は聞くが、計画的で緻密な考えや指示を余り聞いたことがない。
みなみはマーケティングの結果を生かし、部員たちがボイコットせず、思わず参加したくなるような練習メニューを作ろうとする。これも後輩を使って、監督と協力して作らせる。みなみは、人の使い方が上手い。人の強みを生かそうとしたのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授