コールセンターを「なじみのお店」に変える経営改革One to only Oneの発想から生まれる現場力(1)(1/2 ページ)

顧客の声を経営に役立てている企業にはどのような組織的特徴や、他社との取り組みの違いがあるのだろうか。化粧品通信販売事業を営んでいるJIMOSのコールセンターを取材した。

» 2010年07月12日 13時00分 公開
[森 一恵(早稲田大学IT戦略研究所),ITmedia]

 近年、企業を取り巻く環境は急速に変化している。競合他社に先んじて特色ある商品やサービスを市場に投入しても、コモディティ化するまでのリードタイムは年々短くなっており、差別化競争で優位な立場を維持するのが難しい。このような環境で企業が勝ち残るには、自社の主力商品やサービスだけでなく、付随する付加価値サービス向上への取り組みを無視できない時代になってきた。

JIMOSのコールセンターの様子

 一方、顧客の要望が多様化する現在、単にそれらの要望に応じて製品やサービスを多機能化するのでは経営効率が悪い。顧客の要望に応え、結果として満足度を高めるには、最大公約数的な満足度向上を目指すのでなく、本当に重要な顧客層に、安心感と信頼感を備える製品やサービスを競合に先んじて提供する必要がある。

 昨今、大切な顧客の声(Voice of Customer)の活用が注目されるのは、企業経営においてこのよう認識が強まっていることの証拠であろう。

 しかし、顧客の声を聴くことが本当に企業経営に役立つのか。顧客の声を経営情報の水準に引き上げるには、企業にたゆまぬ工夫が求められるに違いない。顧客の声はどの企業にも集まる。だが、その活用度には差があり、競争力の差につながっている例も多い。実際に顧客の声を経営に役立てている企業にはどのような組織的特徴や、他社との取り組みの違いがあるのだろうか。

 これがメインテーマである。今回は、化粧品通信販売事業を営んでいるJIMOSのコールセンターを取材した。JIMOSは、コールセンターコミュニケーターの「顧客を想像する力」「仲間を思う力」を中心とした「想像力」を高め、ビジネス企画への参画をコミュニケーター自ら行うなど、モチベーションの高い組織を構築している。取材を通じて、そのメカニズムに迫った。

 取材に応じてくれたのは、JIMOSの執行役員、林田七恵氏、JIMOSのオリジナルブランド、マキアレイベル事業部事業部長の灰塚崇氏および同事業部副部長コンタクトセンター長の野元寿代氏、経営企画室広報担当の園田万美氏だ。3回にわたり紹介したい。

パーソナルコンシェルジュ「One to only One」の発想

林田 10年前に会社を設立した時に、購買代理業をしたいという思いがありました。10年くらい前から少しずつ、従来はマスメディアに扇動され続けてきた女性たちが、ネットで自由選択をしないといけない状況に変化してきました。しかし、果たしてすべての女性がネットですべてを解決したいのか、また、これまでずっとマスメディアに扇動されてきた顧客が果たしてすべてを自分で解決できるのか、という疑問を持ち、顧客とメーカーを取り持つミドルマンの役割を担う購買代理業を「One to only One」のコンセプトで展開していこうという発想に至りました。

 われわれはこれを「パーソナルコンシェルジュ」と名づけました。昔よくあった「なじみの酒屋」のように、顧客のことを理解し、ふさわしい情報価値を提供するという方針でスタートしました。

 このような背景から、当社のコールセンターは、1人1人の顧客に合わせ、その方の欲しい物を世の中から持ってくるコールセンターとして存在しています。コールセンターは不便を解消する場ではなく、不安を解消する場なのです。


 林田氏のコメントにあるように、JIMOSのコールセンターは、顧客が持つ不安を解消するようなソリューション提供に軸足が置かれている。

 顧客と直接やり取りするフロントラインスタッフであるコミュニケーターは、企業の一方的なサービスを提供するのでなく、顧客と積極的にコミュニケーションする中で導かれる悩みや問いかけ、その顧客が本当に困っていることなどのニーズを探り、それを真摯に受け止め、解決するという基本姿勢に立脚している。このようなコミュニケーションマインドにより、結果として、通常は1対1のコミュニケーションであるはずのカスタマーサービスが1対nのコミュニケーションに変化し、さまざまな角度の情報探索を可能にしている。

 では、どのように現場のコミュニケーターにまでこのようなマインドを浸透させているのだろうか。

 林田氏の言葉にあるように、JIMOSの設立コンセプトである「ユーザーと開発の仲介(ミドルマン)をする化粧品会社」というビジネスモデルが鍵ではないか。化粧品を単に販売するだけでなく、ミドルマンとしての化粧品会社。そこにJIMOSの企業力が隠れていると考えられる。

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